第8話 旅立ち


「……アル殿か?」


 気を失っていたカロンは目を覚ますと、驚いた様子で俺に話しかけてきた。そして、すぐにその表情を引き締める。


「この惨状は一体……。それに、この巨大な鳥は……」


 カロンの視線の先には、カラドリウスがいる。いつも見ている姿とは異なるカラドリウスに、驚きと畏怖の入り混じった視線を向けている。


 俺は簡単に状況を説明することにした。


「そうか……。アル殿には感謝してもしきれんな」


 カロンがそう言って頭を下げると、周りにいた人たちも一斉に頭を下げた。そんな状況に戸惑っていると、背後から声が聞こえてきた。


「キュイ!」


 振り返ると、そこには巨大化したカラドリウスがこちらを見つめていた。


「……カラドリウス」


 俺がそう呟くと、カラドリウスは小さく鳴いた。

 

 鳴き声に共鳴するように、辺り一面に光の粒子が舞い始める。その光はまるでカラドリウスを祝福するように、カラドリウスの体を覆っていく。

 そして、光が収まる頃には……。


「……小さくなったな」

「キュイ!」


 俺の呟きに反応するように、カラドリウスは小さく鳴いた。そんな様子をカロンとアトラが不思議そうに見つめていた。


「驚いた、それはテイマーの刻印ではないか。神々が認めた者に与えられると言われているが、まさかアル殿がそうだとはな」

「俺も初めて見るな。神話の物語にしか出てこないものだと思っていたが……」


 二人は俺の手の甲を見て、そんなことを言っていた。


「アル殿、改めてこの村を、そしてカラドリウスを守ってくれてありがとう。これで、当分の間はこの集落も襲われることはないだろう」


 カロンはそう言って微笑んだ。


「それで、アル殿はこれからどうするつもりなんじゃ?」

「俺は……」

 

 俺には記憶がない。何をやっていたのかすら分からない。


「なあ、神獣っていうのはああいう風に何者かに狙われるものなのか?」

「ああ、そうじゃな。神獣は神々が創り出したとされる生物じゃ。その身に宿す力は計り知れん。それ故に、その力を利用しようとする者に狙われるのじゃ」


 カロンの話を聞いて、俺はある考えに思い至った。


「じゃあ、俺はそいつらを守るよ。なんか放っておけないんだ」


 なぜか分からないが、そうしないといけない気がした。


「なら、集落を抜けた先にある山脈を超えた王都に行くと良い。そこには大きな図書館がある。そこでは、あらゆる知識が手に入ると言われておる。旅をするにも情報を集める必要があるじゃろうし、行ってみると良い」

「ああ、分かった。ありがとう!」


 集落でもう一日だけ泊めてもらい、俺はカロンたちに別れを告げる。そして、集落の人たち全員に見送られながら、ひとり王都へと向かった。

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