♠ 囚われの魔女
第9話 狂気
カロンたちに別れを告げた俺は、集落を抜けた先にある山脈を超えることにした。道は舗装されておらず、ゴツゴツとした岩肌がむき出しになっている。
しばらく歩くと、目の前に大きな山が見えてきた。その高さは雲に届くほどであり、頂上付近は白く霞んでいるように見える。
わずかに整備されたような跡がある道を少しだけ開けた場所に出た。岩場で休憩しようと腰を下ろすと、突然背後から足音が聞こえてくる。
「――っ、誰だ!?」
わずかに霧がかかっていた道から姿を現したのは、カラドリウスだった。
「キュイ!」
カラドリウスは俺に向かって鳴くと、そのまま俺の頬を舐め始めた。
「ついてきちゃったのか?」
「キュイ!」
カラドリウスは嬉しそうに鳴いた。その目はとても優しげで、とてもじゃないがその場に放っておくことも出来なかった。
「……仕方ないか、一緒に行くか?」
「キュイ!」
俺が問いかけると、カラドリウスは嬉しそうに鳴いた。
カラドリウスが乗れと言わんばかりに地面に伏せてくれる。俺はその背中に乗ると、カラドリウスはゆったりと歩き始める。
何時間くらい歩いただろうか。
霧が段々と濃くなり、辺りが白一色に染まっていく。
「キュイ!」
そんな鳴き声とともに、カラドリウスは突然立ち止まった。
霧がぼんやりと晴れだすと、視界の先に村が見えた。
「……村?」
静まり返った村から、わずかに灯りが漏れ出している。その光を頼りに近づいていくと、そこには木造の家がある。
村の中で神獣を連れていると、住人に狙われるかもしれない。そう思った俺は、カラドリウスに問いかける。
「なあ、カラドリウス。もう少し、小さくなれたりするか?」
「キュイ!」
カラドリウスは小さく鳴くと、その体をどんどん縮小させていき、最終的に俺の肩に乗れるくらい小さな雛鳥の体になった。
「神獣って何でもありなんだな……」
小さくなったカラドリウスを肩に乗せながら、村へと入っていく。
「すみません、誰かいませんか?」
バシャという音を立て、水溜まりを踏んだ。いや、水溜まりじゃない……。
下を見ると水だと思っていたものは、真っ赤に染っていた。
「血……?」
目の前を見ると十字架に張り付けにされた少女がいた。その傍らには、黒いローブを羽織った人物たちが立っている。
「何を……、しているんだ?」
俺の問いかけに黒ずくめたちは答えない。代わりに返ってきたのは笑い声だった。そして、ひとりの男がこちらに歩いてくると、口を開いた。
「儀式だよ、コイツは人間じゃない魔女だからな」
そう言うと、持っていた斧で少女を殴りつける。
少女は小さく悲鳴を上げると、そのままぐったりと動かなくなった。
「……おい」
「なんだ? 文句でもあるのか?」
「その子から離れろ」
気づいた時には――、カラドリウスを肩に乗せて走り出していた。
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