第18話

2162年 9月30日


私は笑顔というものの存在をやっと理解した。


8月に微笑みを向けたら犬がなついてきた。人も動物もそうして集まってくる。笑顔は人や動物を集めるための手段なのだ。


母もそうして人を集めたかったのだろうか。


笑顔は人を魅了する。だからこのひと月半、鏡の前で美しく笑えるよう特訓をしていた。


こうすることで、人は自らの苦しみを私に話してくれる。


今日は子供が話しかけてきた。


6歳くらいの男の子だった。すぐに仲良くなった。


名前は「クズモトユウキ」と言った。漢字はわからない。


ユウキは「遊んでよ」と言う。いつも仲間外れにされてしまい、寂しいのだと言った。私はいいことを思いついた。トウキョウから二時間かけて二人で山へ行った。


場所は伏せておく。ユウキと一緒に山のふもとで穴を掘った。土の匂いは清々しかった。


穴を掘っている間、疲れしまったのか、ユウキは眠りだした。


私は生きたままユウキを穴の中に埋めた。目が覚めたら土の中にいることに気づくだろう。


土の中であればいろいろな生物がいるから、もう寂しくない。


土の中にいる生物は、ユウキに興味を示して近づいてくれるだろうから。


2162年 12月2日


前回の日記から大分日があいてしまった。


人を助けることで忙しかった。私は寂しそうな子供を見かけては声をかけるようになった。


友達は、私を子供好きとみている。しかし私に好き嫌いという感情はない。


ただ子供が寂しくないと思う方法を見つけては、実践している。


しかし実践後、気づくと皆死んでしまっている。死ぬことは悪いことではないのだろう。


だって、皆で死ねば、独りぼっちじゃない。死んだ先に寂しさを分かち合える子供たちが待っているのだろうから、寂しくない。


それは幸せなことだと思う。私は世界中で困っている全ての人たちを助けたいと思う。


全員を幸せにしたいと思う。


でも、一人で全員を助けるのは無理だ。効率よく全員を助ける方法はないだろうか。




奏はそれから、2人の子供と2匹の犬猫を殺していた。手記にそう書かれていたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る