第12話

地上に出て色々な人たちと出会い、父に報告するという日々を続けた。


幸助が喜ぶので、最初に招き入れてくれた小屋の男性のもとには毎日のように訪れていた。


いつでも歓迎してくれた。するとポッチも自然とやって来て、なついてくる。それは私にとっても幸せなひとときだった。


地理にも徐々に慣れていった。雰囲気の悪い場所もわかってきたので、そうしたところは近づかないようにしていた。これまで曖昧にしか感じられなかった感情ははっきり自分のものとして取り込んでいくことができた。


例えば以前、私を襲おうとした人間が4人、ある時1型に担ぎあげられて集積場へ向かっていった。皮膚は4人共、いつか小屋の男性が言っていたように緑色に変色し壊死していた。


すでに息耐えており、目はもう私を見ることさえなかった。


焼かれていく姿を見て、ふたつの感情が湧いた。


ひとつは暴力が減るから、死んでくれてほっとしたという気持ちだ。


そしてもうひとつは、不憫だという気持ちだ。


本当は彼らも整った環境の中で普通に生きたかったのだろう。


だから手段はよくなかったとしても、不満を解消するかのようにやりたいことをやっていたのかもしれない。


爆発さえなければ彼らにも違った人生があったかもしれない。


そうした、喜怒哀楽の中に潜伏している細やかな感情や考えが働くようになった。



4月になっていた。


地下ではほんのりと暖かくなり人工の桜が咲いている。


しかし、地上に桜は咲かない。地下で四季を管理することができても、日本に本物の四季はもうないと聞いた。


半年暑く、半年寒い。寒さが終われば地上には、灼熱の暑さがやってくる。暑いと地上は益々不衛生になる。


なんとか全員を助けることができれば。そう思った。


その思いに対して、エラーが鳴らない。


まさか。「地上にいる全員を助ける」。もう一度考えた。やっぱり鳴らない。


それが奏の考えだったことに気づいた。でも具体的になにをすればいいのだろう。


「……奏?」


焚き火を囲って人と話し相手をしていると、突然呼びとめられた。振り返る。


見るとそこには毛布を一枚全身にかけた髪の長い女性が驚いたような表情をして立っていた。


彼女はトウキョウタワーに奏と一緒に遊びに行っていた子だ。


奏の友達。名前は葛本美砂。記憶にあるものよりも痩せており、顔立ちは少しシャープになっている。


「美少女が歩きまわっているって最近噂になっていて、今日も来ているって。だから見に来たの。それって奏のことだったんだ。生きて、いたんだ……」


美砂は懐かしむような目で、恐る恐る近づいてくる。


「そっちこそ、よく生きていた……」


奏が言うであろう台詞そのままが、自然と口から出てきた。奏の考えをやっと理解できたあとの、友達との再会。


友達とは対等なものだと記録されている。だから敬語もいらない。


「あの爆発の中、よく助かったね」


美砂が言う。私は首をふった。心を許しあえる奏の友達なのだから、彼女には本当のことを話そう。


立ち上がり、人の少ないところに二人で行った。あまり他の人には話せない。


「朝比奈奏は死んだの。私は朝比奈奏の代わりに作られたアンドロイドだよ」


「なにそれ、どういうこと」

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