第11話
ダミーが本物になれない以上は、ダミーと本物の間に差が出てくる。
爆発直後3カ月以内に作られた初期の2型は容姿が本物と同じでも全くの別人格になってしまったことが多かったという。
その反省点を生かして、エラー音を義務付けてある。そして、ある程度の人格の誤差は計算されて作られているはずだった。
今日、襲われかけた時以外に警告音は鳴らなかった。誤差の範囲内だったのだろう。
だから別人格になっていることは考えにくい。けれど。一度警告音が鳴ったのに無視をしたために、思考の軸に大きなブレができてしまったことも考えられた。
ブレができれば欠陥や故障に繋がりやすくなる。
山積みになった1型を思い出した。欠陥がある2型がいきつくところは、最悪廃棄処分。
――怖い。
感情が突然、降って湧いてきた。自分の役目が中途半端に終わってしまう。
それは死を意味していた。
こうした思いも、多くの人間が抱えてきたのだろうと実感した。
奏も本当はもっと生きたかったのだろう。生きてなにかをやり遂げたかったに違いない。
私は奏の未来だ。死んだ奏のために必死になって今後の予測を立てる。しかしエラーが鳴る。
考えるたびに闇が見える。ブラックホールの穴に吸い込まれていくような、絶望的な感覚に陥っていった。
朝になって、リビングへ行き父に伝えた。
「私は欠陥かもしれません」
父はコーヒーを淹れているところで、驚いた顔をした。
「なぜそう思う」
「地上でなにをするべきか。奏の予測がまったく立てられないのです。どんな考えをしても警告音が鳴り、時々思考と思考の間に闇が見えるのです」
父はゆっくりとした仕草でテーブルに座った。
「ああ、警告音か。少し不便かもしれないね」
「直して下さい」
「無視してかまわない」
「それでは奏ではなくなります」
言うと、父は溜息をついた。
「人というのはね。例え親子でも理解できないものだ。だから死んだ奏が今生きていたとしても、私にはどういう行動を取るのかわからない。私にも予測不可能なこと。だから奏として完璧であろうとしなくていい。警告音は、本物のとおり完璧な人格にしてほしいという口うるさい親たちを満足させるために作っただけだから、気にしなくていいよ」
言って父は肩をすくめた。わかりましたと答える他に、言葉が見つからなかった。
奏はどういう人間で、どのような夢や意思を持って行動していたのか。
脳はそっくりコピーされているはずなのに、私はその人格を完全に把握できていないようだ。
「さあ、今日も気をつけて行っておいで」
父は自らも仕事へ行く準備をしながら、また悲しそうに微笑んだ。
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