第10話

父はなぜ私を地上へ行かせたがるのだろうか。部屋で少し考えてみた。


奏が生きていたらというIFの想定のもと、私になにか行動を起こしてほしいと願っているように感じられる。


奏がもし生きていて、爆発後の地上の様子を見たらどのような行動を起こすのだろうか。


まずは顔見知りを増やしていく。奏が話しかければみんなが寄ってくるから同じようにしよう。あとは……。


奏の生きてきた十八年間の行動をもとに、自分が地上で動くべき未来の予測を立ててみようとした。


「エラーです」


頭の中で突如音声が鳴り響いた。これは私にしか聞こえないものだ。


2型は本物がとるであろう思考や行動から大きく逸れてしまうと、こうした警告音が鳴る仕組みになっている。


昼間襲われかけた時にも一度鳴った。それはつまり、奏が襲われかけてもああいう方法で切り抜けることはしない、ということを意味していた。


考え直した。奏は快活で聡明で、子供が泣いていれば手を差し伸べ、自分が困ったときは自分でなんでも対処してしまうような子だった。


だからきっと幸助やそのほかの子供たちにも優しく手を差し伸べるだろう。


全員を助けられなくても、すぐに助けが必要な人を優先的に探して許される範囲で手当てしたり、3型に連絡したり……。


「エラーです」


考えかたが根本から間違っているのだろうか。


私は推測できる限りの行動を、数十パターン考えてみた。「顔見知りを作り、困った人には手を差し伸べる」。この考えかたにエラーは鳴らない。


けれどそのあとの行動を具体的に考えると音声が響いてしまう。


困ったことに予測が立てられない。立てようとすると時々警告音と共に深い闇が見えた。


考えられることがいくつかあった。朝比奈奏と私が既に別人格になっているかもしれないということ。奏は22世紀の機械でもはかりきれないほどの思考の持ち主だったかもしれないということ。


そうじゃなければ、欠陥か故障だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る