第7話
そういえばなぜ、地上に人が住んでいるのだろう。
疑問を口にしてみる。
男性は眉を少しだけ動かし、お茶を淹れた。ポッチは大人しく座っている。
「この地上にいる者たちは皆、爆発の時に地上にいて、運よく生き残ったものの、なんらかの病気を発症しているんだ。そして、長くない」
「長くないと、どうしてわかるのですか」
男性はお湯を差し出す。一応受け取った。
「地上はね、昨日まで元気に見えた者が、今日いきなり死ぬという世界だ。体内にそれと気づかずため込んでいたものが、ある日突然目に見える症状となって現れる。血を吐きもがき苦しみ体がいきなり壊死する。ここで生活するようになってから似たような症状で死んでいった人たちがたくさんいた。明日は我が身ってわけだ。爆発時に地上にいた人間は、締め出されたんだ。爆発が起きたその日の夜に人型アンドロイドがたくさんやってきて手当てと調査を始め、生きている人間をふりわけはじめた」
「ふりわけ?」
「長く生きられそうにない者は地上へ、機械でなにも検知されなかった者は地下へ。そういうふり分け。でも形だけだよ。地上にいた人間のほぼ全員は地上に残るように命じられ、地下へ行くことを禁止された。測定不可能な未知の物質で被爆しているとわかったからさ。そして体内から検知された未確認物質が、人に感染するかしないかまったくわからないものだから、俺たちは隔離されたんだよ。隔離されて、地上にいる人間が全員死に耐えるのを政府は黙って見ているってわけさ」
「医療班は人々にどのような処置を施しているのですか」
「あくまで応急的な処置だよ。血が出ている者を手当てする、熱が出ている者に解熱剤を提供する。その程度さ。怪我人を手術することもあるけど、被爆者を根本から治すことはできない。幸助の皮膚も昔のように戻らない。今この辺を歩きまわっているアンドロイドの存在は、人々の不満を緩和させるために政府が送ってきたものだろう。しかし、地上は復興しない。政府はさせる気もさらさらない。あんた、地下から出てきたってことは、もしかしてアンドロイドかい」
「はい。だからこのお茶も実は飲めません」
男性はへえ、と驚いたような顔をした。
「いつも見ているアンドロイドと、大分雰囲気が違うね」
私は自分が作られた理由を話そうとして黙った。言ってはいけない気がした。
幸助は長くない。私が、死んだ娘のために作られたと聞いたらこの男性はどういう反応を示すだろうか。
ポッチが幸助の顔をなめている。
「ポッチも長くはないのでしょうか」
「おそらく……。幸助はポッチが好きなんだ。あんたのことも気に入ったようだよ。さっきあんたを見た時の顔。あんな顔をしたのは久しぶりだ。話に付き合わせて悪かったね。でもまた時々聞きにきてくれないかい。幸助が喜ぶ」
「わかりました」
男性は笑顔を向けた。私もつられて笑顔をたたえた。
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