第5話
翌日になり、自分の動作確認をする。体はスムーズに動く。
カーテンを開けると光が差し込んできた。今日は晴れだ。
父はもう仕事へ出かけてしまった。私は着替えを持って、早速、地上へ行くことにした。
公共のミニカーで移動する。地上へ行くためのエレベーターは街にいくつか点在しており、警備は厳重だった。私は目的地にたどり着くと、人間の警備員に通行証を見せた。
警備員は通行証をじっくりと確認してから、エレベーターを開いてくれた。地上1階。
ボタンを押すと、エレベーターが動きだした。到着すると、警備員として配置されている3型が2人立っていた。滅菌室があり、そこを通るようにと言われた。その先には更衣室がり、ロッカーの中に着替えを入れた。
更衣室の隣に、鉄でできた黒く巨大な扉があった。扉の先が、本物の外なのだろう。
警備員としての3型が、扉の隣にとりつけられた暗証番号ボタンを押す。扉はゆっくりと両開きに開いた。
本物の風が吹きつけてきた。人工の風とは違い、つき抜けた冷たさと透きとおった心地よさを感じた。
最初に目に入ったのは、地平線だ。遥か遠くまで見渡せる。高層ビルやスカイツリー、トウキョウタワーの骨組みだけが、朽ち果て残されていた。
記憶の中にあるトウキョウの街並とは程遠い。頭の中で静かなモーター音が聞こえた。
現在のトウキョウの景色が自動更新され、記憶として蓄積されたのだ。カントウは壊滅、というのは知っていたけれど、それは教科書の知識みたいなものだったので、実際に消し飛ばされた街をこの目で見ると衝撃的な気持ちになった。
人工の空は青なのに、本物の空は灰色だ。太陽は雲に隠れている。
視線を近くにあわせる。不思議なものがずらりと並んでいた。それは私の肩くらいまである、黄色い三角錐の箱と、青い色をした立方体の箱だった。その箱と箱の間を、1型と3型が連携しながら忙しそうに動いている。
妙な臭いを検知して臭いのもとを探った。見ると足元に人間の男性が横たわっていた。近くにいた1型が寄ってくる。
「死体確認。半径10メートルに3体。身元を確認しに行きます」
そう呟いて死体を抱えあげる。近くには、人間の死体が本当に3体転がっていた。
1型は私を見た。
「2型確認。故障なし」
私は1型を呼びとめた。
「その人はなぜ亡くなってしまったのですか」
「地上は不衛生です。爆発の後遺症、感染症、怪我、その他の病気。亡くなる理由は様々です。だからこの人がなぜ亡くなったのかはわかりません」
「死体はどうするのですか」
「我々が一カ所に集めて燃やします」
「ここに並んでいる、黄色や、青い箱はなんですか」
「地上にいる人々が暮らしている家です。彼らが自分たちでなんとか建てた家です」
私は頷き、荒廃した土地を少し歩いてみた。
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