第4話
地下にいる人間は原則、地上へ行くことを許されておらず、地上の情報も一部の人間しか入手できない。
一部の人間とは政府関係者のことだ。
父は政府にアンドロイドを作る目的で協力をしているが、普段は脳科学者とチームを組んでいるただの研究者であるため、扱いは一般人と変わらない。
一般人に地上の情報が入るとしたらそれは死亡通知だけだった。
しかしアンドロイドだけは、地上へ出ることを許されていた。
肺も内臓もないから排泄することもない。特殊なマスクをする必要もなければ、未知の病に感染することもない。
けれど2型が地上へ出ることは珍しい。爆発で娘や息子を失った親は、みんな偽物の我が子を手放したくなくて、外へ出そうとしない。
父の考えは、そうした人々とは違うようだ。新たなアンドロイドを開発するための手がかりとして地上の情報が欲しいのか、ただの好奇心なのか、真意は掴みかねる。
「私は食器を片付けたら、部屋で本でも読むことにしよう。カナデも早めに休みなさい」
「はい」
私はリビングを去り二階の自分の部屋へ行った。部屋は簡素だ。机と戸棚があるだけで、無駄な装飾品はない。
これは奏の趣味だ。
私は鏡の前に座って顔をよく認識する。こうしていると、生前の奏の記憶が色々と溢れてくるのだ。奏はよく鏡の前で笑顔を作っていた。
黒髪ストレートで、色白、黒目が大きい。美人と呼ばれる種類の顔であるようだ。
奏が笑顔の練習をしていたのは、男女問わず人を惹きつけようと努力してのことだったのだろう。
妙なカリスマ性があり、記憶の中では色々な人がいつも奏のところに寄って来ていた。
奏は好奇心が旺盛で、友達と地上によく出かけては観光を楽しんでいたようだった。
トウキョウタワーに行ったのが、残されている最後の記憶だ。特別展望台から景色を見ているときに空でなにかが光った。
それから視界が一転し、記憶はシャットアウトされる。爆発で死んだのだろう。
死ぬ直前の感情というものは記録されていない。なにがなんだかわからないうちに死んでしまったようだ。
頭を切り替える。私の役目は地上へ出ること。
「楽しみ」という感情が湧いた。これは奏の思考回路から来るものだろうか。
それともカナデという私の気持ちなのだろうか。奏も同じ状況に立たされたら、きっと同じことを考えるはずだ。
だからこれは私の気持ちでもあり、奏の気持ちでもあるのだと思った。
気持ちがリンクしたせいか、動きのぎこちなさも心なしかなくなった気がした。
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