第2話
父は目を閉じた。なにか考え事をしているらしい。
今私たちが暮らしているところは、地下だ。日本人は現在ホッカイドウからオキナワまでほとんどの人が地下で暮らしている。
地下で暮らし始めたのは、爆発が起きる10年前からだった。
西暦2130年を超えたあたりから世界情勢は緊迫していき、核を持っている国々が険悪化してその使用をちらつかせ始めたのである。
日本が巻き込まれるのも例外ではなかった。
日本の科学技術はこの一世紀ほどでかなりの進化を遂げており、諸外国のどこも、日本の科学技術を欲しているのだ。
しかし日本は核を持たない。そこで政府のとった防衛策が、国民を地下の深いところに住まわせるというものだった。地上にあった街をそのままそっくり地下に移すという計画を、約30年かけて完成させたのだ。
そのまま移すと言っても、高い建物を地下に作ることはできなかった。だから、地下では戸建てか、せいぜい三階建てまでのマンションが並んでいる。
地下にはちゃんと街があり、店があり、会社があり、学校もある。
かなり昔にあった「電車」と言われる乗り物はなくなっていた。
人々の大抵の移動手段は太陽から発電する三輪型のミニカーで、人が運転しなくても、行き先を告げれば勝手に反応し動く。公共の乗り物として活躍している。
地下なのになぜ太陽光発電の乗り物があるのか。
それは人工の太陽があり、人工の空が作られているからだった。時々人工の風が吹き、定期的に人工の雨も降る。
人工の太陽は、実際の太陽が日本に与える影響とほぼ同程度の強さと光で作られ、地上と微塵も違わない時間で日が昇り沈む。だから洗濯物も干せるし、田舎では農作物も育つ。
地下に住んでいたおかげで、地球外から降ってきた天体から多くの人々が助かった。けれど亡くなった人も当然多くいた。
地下都市ができて以降、地上に人々の住むところはなくなったけれど、爆発前は地上にも街はあって、観光もできたらしい。
どうしても地下に移せなかった寺院や神社、トウキョウタワーやスカイツリーなども歴史的な建造物として残されており、政府からの緊急指令が敷かれる時以外は、好きな時に好きなように地上へ出かけることができたという。
こうした知識は私の中にもともとプログラムされている。
私の名前は朝比奈カナデ。名称ZA(ゼットエー)2型。
父はロボット工学の第一人者で、私は爆発で亡くした父の娘、奏の代わりに作られた。
姿形は奏を模倣している。記憶も。思考も。声も。
人の脳をそっくりそのまま機械にデータ化し、そのデータをアンドロイドに移し替える理論と技術は、2090年代後期には確立していた。奏は19になる年の18で死んだから、一応年齢は18ということになる。
奏の脳は、私の中にコピーされている。皮膚は本物の人間と同じように柔らかく、関節も本物の人間と同じく滑らかに動く。アンドロイドと人間が同じところにいても、アンドロイドと技術者以外の人間には区別ができないほど精巧な作りになっている。
ただしアンドロイドはアンドロイドという自覚を持たせるためか、本物を本物よりも少しだけ客観的に見られる仕組みになっている。
現在、人と同じ姿形をしているアンドロイドは1型から4型まで、4種類ある。2型以外は、トウキョウ大爆発以降、至急作られたものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます