ブラックワールド
明(めい)
第1話
2168年 3月
「君の誕生からちょうど1週間が経過したね。調子はどうだい」
父がリビングで夕飯を食べながらそう訊ねた。
私はものを食べることができないので、父に向かい合うかたちで白く丸いテーブルに座り静かに答える。
「良好です」
父はコーヒーの入ったコップに口をつけ、悲しそうに笑った。
「敬語は慣れない」
「敬語じゃないほうがいいですか」
「いや。そのままでいい」
父はそれから長いこと黙っていた。
家は鉄筋。3LDKの一戸建て。そのうちのひと部屋は研究所として使われている。
母はいない。奏が幼い頃に死んでしまったと聞く。今この家で暮らしているのは、父と私だけだ。朝比奈陽介。それが父の名前だ。
今から3年前に、日本に3度目の核が落とされた。
「核が落とされた」というのは語弊があるかもしれない。天体が落下して首都トウキョウに直撃したのだ。最初は外国による核攻撃かもしれないと予測されたが、実際には違った。
私のデータによると今から260年前、まだ核兵器というものがなかった1908年に、ツングースカ事件というものがあった。
ロシア帝国領のツングースカ上空で天体が落下し、爆発したというものだ。
トウキョウ大爆発は調査の結果、それと似たようなもので、しかし爆発の威力はツングースカに落ちた天体の数百倍の威力を放つものだった。
カントウと呼ばれていたところは壊滅し、空気は人に有害とされる物質で汚染されてしまった。
爆発から運よく助かり、目撃した人の情報によれば、かつてヒロシマとナガサキに投下された原子爆弾以上の印象を持ったという。
大戦と呼ばれた時の映像はまだ残っている。
爆発後、人々は一瞬で溶け灰になり、建物のほとんどは瓦礫も残らないほどに消滅した。
検出された有害な物質は、この地球上のどこにも存在しないもので、だから外国からの攻撃ではないと判断された。
トウキョウに落ちた天体は外見上、核に使われる原料に似た物資を伴うものだったが、未知の物質であるために国も医療機関も研究者も、被爆に似た症状を起こしている人々に的確な処置ができずにいるのが現状だという。
「カナデ。君はまだ動きにぎこちなさがあるね」
「慣れるまでもう少し時間がかかりそうです」
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