第2話


「……っ!大丈夫、ですか?」


そんな私を見て驚く彼女。

無理もない、突如隣に現れた女が本屋でいきなり涙を流すなんてとても正気の沙汰とは思えない。

彼女は私にハンカチを差し出した。

それと同時に大粒の涙が私の頬を伝う。


あまりにスマートで自分が情けなくなる。


「すみません、こんな……急に……」


ハンカチは薄いピンク色をしていた。

この綺麗なハンカチを汚すのが私なのだ。私を表している。綺麗には、なれない、出来ない。

などと詩的な思考で自分に酔いしれる。

本当に情けない。

彼女は躊躇う私に察して、


「ハンカチ、使いづらいですよね。どうぞ」


とポケットティッシュを差し出した。

私はそれを受け取り涙を拭く。

どこまでも完璧だ。


「良ければ、お話。聞きましょうか?」


そう言って本屋の奥を指差す、彼女。


どうやらここにはカフェも併設されているようだ。

読書しながらお茶の出来るお店らしい。


幾度も彼と通り過ぎたが、知らなかった。

私は涙を流しながら、頷いた。


彼女と、私はカフェの一番奥の席に腰を掛けた。

そして温かい紅茶と小さなケーキを注文する。


彼女は温かい珈琲と小さなアイスを。


珈琲だなんて、大人びているなあと私は思う。


緊張し、猫背になっている私とは対照的に彼女の背筋は美しく、スマートにテーブルの上に文庫本を置く。


そして彼女は真っ直ぐに私を見つめ、自己紹介を始めた。


「初めまして。私は東条院 美都祇(とうじょういん みつぎ)。東条学園の生徒よ。今年で三年生になったわ。」


想像通りの名前だったし、東条学園と聞いてなるほどとも思った。


「三年生……私と同じだ。」


私は彼女に聞こえたのかはわからないがそう、呟いていた。


東条学園とは所謂お嬢様や御坊っちゃまの通う学園だ。ほとんどの生徒が幼稚園、小学生から同じのエスカレーター式の学園だ。


私とは大分無縁だ。そしてやはりいい教育やいい生徒(身近な存在)は人格にも影響する事が先ほどの彼女の行動で証明されている。


「私は立花 季津果(たちばな いつか)……です。私は南高校に通っています。」


ああ、あそこね。と彼女は微笑んだ。


「私の、幼馴染みもそこに通っているから知っているわ。」


「本当に!?お嬢様の幼馴染みってどんな……あ、ごめん。」


私は彼女をお嬢様と差別化してしまったことを後悔する。それでも彼女は笑っていた。


「気にしないで。それと私の事は美都祇と呼んで。私も、あなたの事季津果って呼んでもいいかしら。」


私は頷く。こんな綺麗な人とお友達になれるなんて思ってもいなかった。彼女は私の頷きに対して、ありがとう、と微笑みながら綺麗な髪の毛を耳にかける。


彼女は一瞬にして私の憧れになった。

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