第1話
「別れよう、季津果。」
男性は何故こうも結論から話したがるのだろうか。
彼の一言を聞いた私はそんな風に考えた。
別れよう、の一言は私の脳内には入らない。
“それ”はハッキリとした答えなのに、拒絶したい気持ちが先行する。思考が止まって、脳内の端から端まで彼との2年間の思い出が散り散りと花弁のように舞っていく。
言葉は、出ない。
でも、涙だけが地面に落ちていく。
「ごめんね。」
小さな声で謝る、彼。
それはもう時間は戻らない事を意味していた。
つまりはこう言いたいのだ。
君が泣いても、喚いても。僕の気持ちは変わらない。
そして私は、もう一度だけやり直そう、引き留めたい、そんなこと言っても思っても無駄だということを理解した。
「わかった。」
ただ、それしか言えなかった。
それはいつもどおりの朝でいつもどおりの放課後だった。
今年の春の匂いも君と過ごせると信じて疑わなかった。
いつも優しく笑う彼が、今はどうしてこんなに他人のような表情をしているのだろう。
顔をあげれば、そんな彼が私の瞳に映っていた。
ああ、戻らない。すぐにそう思った。
それでも私は彼にこう言った。
「好きだよ。」
それは魔法の言葉でもあり、呪いの言葉でもあった。
こうして、彼との二年間はあっけなく終止符を打たれたのだ。
私は彼と別れたあと、どうも真っ直ぐ帰る気にはなれず、本屋に足を止める。
いつもは通り過ぎている本屋だ。
中に入ると紙とインクの合わさった独特な匂いが鼻の奥を伝っていく。
どんな本が読みたいだとか、そんなのはなくて。
ただ失恋して真っ直ぐ帰る気になれなくて立ち寄っただけだった。
文庫本のコーナーでボーッとタイトルも読まず本を眺めていた、その時だった。
隣から柔らかい花の香りがした。
パッと、隣を見るとそこには色白で綺麗な黒髪をした私と変わらない歳であろう、制服を纏った女の子がいた。
彼女は絹のような美しい髪の毛を耳にかけ本に手を掛けていた。
ああ、綺麗だな。
そう思った。
自分もこのくらい綺麗であれば彼にフラれること等なかったのだろうか。
いや、原因は見た目ではないのはわかっている。
こういう思考をしてしまうような幼稚で稚拙な所がひとつの原因といえよう。
それでも私は彼女を見て羨ましく思ってしまった。
綺麗な人はどこまでも綺麗だ。
そして気が付くと涙が出ていた。
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