第10話

「・・・・・・すいません。もっと、目につかないところにつるすべきでしたね」

木から鴨を下ろしに行ったハクに答えず、美花穂は足早に家へと向かった。

「美花穂さん・・・・・・だから。見ないでくれと、言ったのに!」

ハクの悲痛な声が追いかける。

さゆを治療する時の姿を。

龍の自分を。

思い出したに決まっている。

それでもハクは背を向けたまま待っていた。

美花穂が抱きしめてくれるのを。

その、柔らかな温もりを。

「ごめん」

遠くで小さな声がかすかに聞こえた。

「美花穂さん・・・・・・」

ハクが銀髪を揺らして振り向いたとき、美花穂の姿はそこにはなかった。

ハクは深く息をつくとうつむいたままぐっと拳を握りしめ、身体を震わす。

そして鴨の下に置かれたバケツを持つと、中のどろどろと生暖かい血液をごくり、ごくり、と飲み干した。

苦みのある液体が、胃の底へと落ちていくのを感じる。

新鮮な生き物の血を得たことで身体中の細胞がふつふつと熱くなる。

全身を力がみなぎっていく。

・・・・・・私は。龍だ。

飲み終えると同時に、バケツがガラン、と音を立てて足下を転がった。

なぜ。人間などとこんなに深く、関わってしまったのか。

距離を置いていれば。美花穂を愛おしく思わなければ。

龍である自分を。恥じ入ることもなかったのに。

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