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 二条拓磨は、小学生の頃から起業を経験している生粋の起業家であり発明家である。


 彼は小学一年生の時の作文に書いた通り、高校生の時にお料理ロボットを作った。それは人型をしているわけではなく、キッチンに据え置かれ、水道と接続し包丁や圧力鍋やコンベクションオーブン等調理機能を内臓した箱のようなものだった。献立を選び材料を入れると一定時間ののち調理済みの食べ物ができている。AIを搭載し、塩加減など使用者の好みに合わせた味付けができるようフィードバック機能も付いている。


 高校生になっていた拓磨は、もう母親に甘える歳でもなく、かといって労わるほど大人でもなかった。ただ照れくさそうに「これ、作ったんだ。使ってよ」と言った。


 拓磨の会社の業者が設置していったお料理ロボットは、控えめに言って素晴らしかった。

 その日から母は、献立を選び、お料理ロボットに指定された食材を買ってロボットの中に入れるだけで、美味しい料理ができた。しかもお料理ロボットは決まって「美味しいですか?」と尋ねてくる。「もう少し味が濃い方がいいなぁ」とか「もうちょっとカリカリに焼いて欲しいな」なんて文句を言ってもちっとも怒らずに「はい、分かりました。次はそうしてみますね」と言って好みの味に近づけてくれる。最高のシェフだ。まるでドラえもんの世界。いや、それ以上だ。


 拓磨の母は、最初はウキウキでお料理ロボットを使っていた。何よりこんな発明をした子供が誇らしかった。そして今まで最も忙しかった食事の前の一時間ほどが、自由時間になったのだ!食事は美味しいし、姑と夫と息子と、四人で囲む食卓はいつも「美味しいね」という言葉が飛び交った。ただ、それが当たり前になってきたある日の午後。母はふっと考えた。


「もう私の手料理を拓磨に食べさせる日は来ないのだろうか」


 とてつもなく寂しい。それなら、昔のやり方で料理すればいいこと。でも、しない。便利に慣れてしまった以上、なかなか昔の生活に戻るのは億劫だ。

 たまに外でバーベキューをしたりもするが、その時の主役は夫だ。

 お料理ロボットがあっても、元々料理が好きだった人は趣味で料理を続けていくのだろう。でも、自分のように義務感でしていた人が料理をすることは、非常の時以外ないのだろうな、と思った。


 母は、空いた時間を整理整頓や庭の手入れに充てることで、家庭をより良く維持することに貢献することにした。それにより、新しく存在意義を見出した。家事は、やろうと思えば無限に湧いてくるものなのだ。

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