最終回~堅気の決意~
抗争から半年がたったとある夏の日。
俺は抗争の責任を取り、海沢会から抜け、ヤクザの世界から足を洗った。
海沢会は関西一円にその名を轟かせており、先代会長・山田とは兄弟分関係にあった暴力団組織〈草仁会〉の勢力下となり、所謂吸収合併される形で残ることになった。
一気に勢力が弱まったことにより、俺はかなりの恨みを買ったに違いない。
だが、これに関しては責任を取る形で、会長にも若頭にもならずして、堅気になったのだ。
これが俺としてのけじめというものかもしれない。
俺のせいで命を落としたやつらのことは、本当に申し訳ないと思っている。
特に藤沢の親分や、マル暴の石原も巻き添えを食わせてしまった。
これは今後、一切抱えて生きて行かなければならないのだ。
だが、俺の心の中は、とてもモヤモヤ感が残っていたのだが・・・
だが、いつ命を狙われているか分からないため、東京から離れて自分は大阪にある集合団地で時を過ごしていた。
そんなある日、俺は一人喫茶店に姿を現した。
マスターでもある男性が俺の顔を見るや否や
「あっ大川さん。例のコーヒーのアイデア絶賛中ですよ」
「使ったのか?」
「えぇ」
マスターは笑顔で言った。
俺はコーヒーに関しては意外と味にうるさい方だ。
東京時代に通っていた喫茶店が、とてもコーヒーが深く味も濃かったため、ブラックでもとても飲みやすかったのだ。
あの抗争以来、全く行ってないが・・・
俺は笑みを浮かべてから
「そりゃありがとう」
「あっそうだ。大川さんにお客さんですよ」
「客?」
よく見ると、奥のテーブル席には見たことのある男性が座っている。
あれは完全に有田だ。
何故警視庁のマル暴刑事がこんなところにいるのか、理解が追い付けなかったが、ゆっくりと近づいて
「なんだ。ここまで来て」
有田はゆっくりとコーヒーを口に含んでから
「元気しているかなと思って」
「元気じゃなかったら、どうするつもりだったんだよ」
「別にどっちでもいいんだよ。俺はお前を捕まえに来た」
そうだと思った。
俺は今回の抗争で数えきれないほどの人間を殺害した。
本当なら死刑台に送られてもおかしくないのだが、恐らく有田の計らいでこの一か月は穏便に過ごさせてくれたのだろう。
だが、これで遂に楽になれるのかと思い、鼻で笑ってから
「とうとう、お迎えか」
「本当なら、家で逮捕しても良かったのだが、ここによく来ると聞いてな。少し喋りたかったんだ」
「そうか」
「それより、知ってるか?」
「なんだ」
「海沢会、昨日付で解散届が出された。多くの幹部や組員は全員〈草仁会〉に移動することになった」
「解散か・・・」
遂にそこまで達してしまったのか。
確かに最近は勢力が日に日に落ちていると聞いたばかりであり、中には会を抜けて他の会に移動する者も出始めたみたいだ。
新しく会長に就任した〈池尻〉は、元々会の直参組長であり、今回の抗争では全く無関係ではあったが、直参の中でもかなり古参の幹部であったため、会長に就任し、若頭には〈池尻組〉の若頭である〈水野〉が就任したと聞いた。
事実上、池尻組がグレードアップしたみたいな感覚を覚えたのだが、下手に若頭を選別するよりかは、古参の幹部であり、その幹部がツートップになることがどれほどの安心感を会幹部に送られるのか。
今回の抗争事件で組員たちは更に覚えたのだろう。
だが、関東一円という勢力も時代の流れ。
今では関西最大の暴力団組織に勢力を奪われ、シマもシノギもほとんどは〈草仁会〉に半分近く奪われている。
それが上層部にとっては、とても悔しく思っていたのだろう。
それを感じながらも、解散には納得していた。
すると、有田が
「一つ聞いてもいいか?」
「なんだ」
「なんで会を抜けたんだ。堅気になったら、逮捕される危険性もあるはずなのに」
「馬鹿野郎。そんなことしたら、俺の命なんか、一か月も持たねぇよ」
「そうか」
「なぁ、有田」
「なんだ」
「お前は気づいていたんだろ。俺が全てを察していることを」
「・・・あぁ」
「だろうな。それだったら、こんな喫茶店までわざわざ来ねぇよ」
亡くなったマル暴・石原には一人の大切な警察学校時代の同期がいた。
俺には「可愛いやつ」といつも言っており、同期でも中には疎遠になる人間もいたのだが、そいつだけはいつも連絡を取り合っていると言っていた。
それが有田であり、彼は恐らく石原の無念を晴らすためにマル暴に赴任したのだろう。
元々有田は警視庁捜査一課の刑事であり、花形の部署から危険が常に伴うマル暴に異動をするということは、相当な覚悟の前に、石原に対しての恩や情があったのだろう。
それはすぐに見破っていたため、俺は油断も隙もない危険な人物だと思っても、決して有田を憎めないでいた。
俺はしばらく考えてから、一つの決断を決めた。
そっとテーブルの上に拳銃を置いた。
有田は拳銃を見てから、目を見開きながらも俺を見て
「お前、なんで持ってるんだよ」
「いいだろ。別に」
「ダメに決まってるだろ」
「そんな固い話は良いんだよ。この銃には一つの弾が入っている。それで俺の頭を撃ってくれ」
「は!?」
俺の覚悟は今決まった。
それは全てのけじめであり、やはり俺はこの世にいる必要はないのだ。
「このまま死刑台に送られることをビクビクしながら死ぬより、有田から撃たれて死んだ方が気が楽だ」
「大丈夫だ。刑は軽くするから」
俺は首を横に振った。
これで全てが解決するのであれば、俺は地獄の底に連れていかれようとも構わない。
責任をあの世まで持っていくのが俺の最後の仕事だと思う。
そう感じると、今、この場で死ぬのが怖くなくなってきていた。
「頼む」
「・・・」
有田は拳銃を持ち、俺の方に銃口を向けた。
俺はゆっくりと目を瞑り、全てを覚悟した。
すると一発の銃声音が響いた。
これで楽になった・・・と思ったが、よく見ると有田は銃口を別にずらしており、ただ飾られていた観葉植物が大きく揺れていた。
俺は有田をじっと見てから
「有田」
「だから言っただろ。お前の刑は軽くする。それに刑事が堅気を殺すってあまり洒落た話じゃないからな」
有田は微笑みながらも袋を取り出して
「これは預かっておく」
そう言って拳銃を袋にしまった。
「俺はどうなるんだ」
「しばらくは刑務所で身を置け。後はこっちで何とかやるから」
「・・・悪いな」
「別に、石原さんはあんたのこと何も悪くは思ってなかったからよ。俺もあんたのことは何も思わない。だが、ヤクザはゴミ以下だけどな」
俺は微笑みながらも、両手を握りしめて有田に差し出した。
有田は手錠を両手にかけて、そのまま喫茶店から外に出ることにした。
この景色も一旦は見納めか。
だが、なんだか安心感があった。
堅気になったことや、それの罪も償えること。
俺はそれに感謝を覚えながらも、警察車両に乗せられて行くのであった。
決してヤクザという世界は華やかではないことは確かだ。
だが、俺は一切ヤクザになったことは後悔もしてないし、だからといって肯定もしない。
これが俺の〈男〉としての生き様なのだ。
ただそれだけが全てだ。
~終~
Villain 柿崎零華 @kakizakireika
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