第6話~親分の気持ち~
俺は石原に事の状況を連絡してから〈藤沢組・事務所〉に向かった。
事務所に入ると、幹部の一人が俺に神妙な面持ちで近づいてきた。
「頭」
「どうした」
「親分が呼んでいます」
「分かった」
藤沢が何を話そうとしているのかが、見えない組長室の扉の向こうから伝わってきた。
俺は覚悟を決めてから、ドアをノックして部屋に入ると、藤沢が誰かと電話をしており、俺の姿を確認するとすぐに電話を切った。
「座れ」
藤沢の声が、怒りに満ちている声だとすぐに分かった。
俺は小さく頭を下げてから長椅子に腰を掛けた。
藤沢は神妙な面持ちで
「先ほど、飯田の兄弟の事務所が、何者かに襲われた」
「え?」
「犯人は分かっていないが、飯田の兄弟含め、若い衆もみんなやられた」
「一体何故?」
「そうだな。菊池と永野が裏で糸を引いているとするならば、色々と辻褄が合う。頭だった萩田が本家の若頭補佐になっているからな」
「そうですか・・・」
すると藤沢が俺の目をじっと見てから
「なぁ大川。お前、何か関わってねぇだろうな」
「え?」
「ちょっとな、タレコミがあってな。事件の直前にお前が飯田の兄弟の事務所に入っていくところをな」
「それは何かの勘違いじゃないでしょうか」
「そうか。勘違いならいいんだが」
その時、藤沢が俺に向かって拳銃を向けて来た。
「じゃあ、なんで俺のチャカが一個ないんだ」
「それは・・・」
「ここに簡単に出入りできるのは、お前ぐらいだ。まぁ若い衆なら即破門だけどな」
「・・・」
まさかこんな簡単にばれるとは思わなかった。
藤沢は拳銃愛好家で知られており、かなりの数の拳銃を持っている。
一つだけ無くなったところで、気づくはずはないと思っていたが予想外であった。
だが、俺に銃口を向けるとはたとえ親分であっても許せない。
しかし、藤沢とは親子の盃を交わしている。
あまり下手に行動は出来ないため
「じゃあ、俺のことを殺すのですか?」
「本当はそんなことしたくはないのだが、兄弟をやったことに関しては許せねぇんだよ」
「・・・」
「確かにお前は有能だ。頭にしておくのがもったいねぇくらいだ。だがな、ヤクザの世界は義理の人情で成り立ってるんだよ。例えお前が飯田の兄弟と盃を交わしていなくても、俺はあいつと交わしている。だからこそ、あいつの仇を今取らねぇと、ヤクザの義理が立たねぇんだよ」
「なぁ親父」
「なんだ」
「覚えてますか。二十年前、俺がこの組の世話になり始めた頃。あんたはこの組を頭をやっていた。俺があの時まだ生意気で、いつも先輩から怒られていた。そしたら頭がラーメン屋に連れて行って最初の一言が」
「好きなようにやれ」
「やっぱり覚えてますか」
「当たり前だろ」
藤沢も恐らく俺と同じような振る舞いをしていた時期があったのだろう。
当時組長は〈干潟〉という人物であったが、とても組長にしては礼儀正しい人物であり、昔気質のヤクザであった。
だが、藤沢はいつも干潟とぶつかるほど、革命的な人物でもあった。
だからこそ、あの人が俺の胸に刺さっていたのだ。
俺は藤沢の顔をじっと見てから
「じゃあ、お好きにどうぞ」
「は?」
「俺はあんたと盃を交わしている。だから俺からは何も行動しない。それに、あんたには殺す動機も恨みもない」
「もし交わしてなかったら」
「撃ち殺す」
こればかりは仕方がない。
拳銃で頭を撃ち抜かれて死ぬことは、俺にとっては光栄なことだ。
警察に逮捕され、けじめを付けて指を詰め、自分の地位も失うよりも親分から拳銃でけじめを取ってもらうのが、まだマシである。
それがヤクザの世界と言うものだ。
俺はゆっくりと目を瞑った。
これで楽になれるかもしれない。
そう思っていると扉の奥から多くの人間の怒号が聞こえて来た。
その瞬間、銃声が響き渡り、藤沢も何事かと思い、扉の方に目をやると、見知らぬ男たちが部屋に入ってきて、拳銃を向けている。
俺はすぐに壁の方に行き、一人を撃ち殺した。
しかし、もう一人の男が藤沢を撃ちこみ、俺はその男を撃ち殺した。
俺は藤沢に近づき、体を起こしてから
「親分」
「・・・なぁ大川・・・」
「今、止血しますね」
「やめろ」
そう言って俺の手を強く掴んでから
「大川・・・お前をそうしたのは、恐らく菊池たちだろ・・・」
「・・・」
「いや、もしかしたら俺かも・・・な・・・」
そう言ってゆっくりと目を閉じた。
「親父、親父!!」
俺は悲しむ暇を与えず、すぐに藤沢を殺した人間の顔を見た。
すると見たことのある男であり、こいつは〈芽久山組〉の人間だ。
芽久山と藤沢は確かに兄弟分を結んでいるが、一体藤沢を襲う理由がどこにあったのだろうか。
俺は少し考えながらもすぐに石原に電話をした。
「もしもし、俺だ」
『どうしましたか』
「大変だ。藤沢の親分が襲われてやられた」
『え?!』
「ちょっと今暇か?」
『あぁ、ちょっと話聞かせてくれ』
「分かった」
そう言って電話を切ってから、倒れている藤沢にゆっくりと頭を下げてから、すぐに石原の元に向かうことにした。
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