第3話~会長の部屋~

俺は萩田に連れられ、菊池の元に向かうことにした。


まだ菊池とは兄弟分を結んでいない。


例え会長であろうが、親子の縁でもない人間から何も指図を受けたくはないのだ。


会長室の前では既に若頭・永野の姿があり、こちらを睨みつけている。


永野は黙ったまま、ただ俺のことを見つめている。


俺も睨みを利かせてから


「なんですか」


「いや、ちょっとな」


「永野さん。芽久山のおじきは、本当に許してくれたのですか?」


「それはどういう意味だ」


「いや、まだ芽久山さんは生きてらっしゃいますよね。なのに親分差し置いて本家の頭になるなんて、ちょっと虫唾が良すぎるんじゃないですか?」


「てめぇ、誰に向かって口利いてるんだこの野郎」


俺は鼻で笑うと、永野は拳銃を取り出そうとした。


そこに萩田が間に入り


「まぁまぁ頭。ちょっと、大川もかなり疲れているみたいなので、頭の回転が鈍くなってるんですわ。勘弁してやってください」


永野は舌打ちをして会長室に入っていった。


何故こんな奴のことを庇うのか、萩田の神経を疑い始めてしまった。


すると萩田が俺の方を向いて


「お前、口に気を付けろよ。相手は頭だぞ。ナンバー2であろうと、あんなこと言って破門にでもなったらどうするんだ」


「馬鹿野郎。俺は自分の親父を差し置いてでも、出世する奴が許せねぇんだよ。やくざの風上にも置けねぇよ」


そう言うと、萩田が黙り始めた。


しばらくしてから、萩田が「失礼します」と声をかけ、会長室のドアを開けた。


するとそこには椅子に座ってこちらを見ている菊池の姿と、隣には永野の姿があった。


菊池のデスクまで近づき


「会長、何の御用でしょうか」


「大川。どうやらお前の組は、俺らが先代を殺したと思い込んでるみたいだな」


俺はデスクに両手のひらを付けてから


「いいですか会長。義理や人情、シマ、シノギ、そして盃、これはやくざにとって絶対条件でもあり、生きて行く上では破れない掟なんです」


「何が言いたいんだ」


「あなたのは親子の盃を交わしていない。強いて言えば、交わしてない今だからこそ言えるんだ。俺はあんたが殺したと思っている」


この時の盃はとても強いものだ。


先代の会長とは当然親子の盃を交わしており、まるで息子のように可愛がってくれた。


それは盃を交わしていた会員がそうだ。


だが、菊池はそれを嫌味のようにとらえており、一匹狼の意味をはき違えていた。


だからこそ、会員とは盃を一人も交わしておらず、虎視眈々と会長の座を狙い続けていた菊池は、自分の意思とは裏腹に、会員達からは嫌われているのだった。


俺はいつかその権力しか頭がない面を剥がしてやろうかと、様子を伺っていたが、このタイミングで全てを吐き出すことを決意していたのだった。


菊池は鼻で笑ってから、立ち上がり


「面白れぇじゃねぇかよ。でもな、盃を交わしてなくてもここの会長を務めているのは俺だ。俺の言うことは聞いてもらうぞ」


「は?」


菊池は永野に「おい」と言い、永野は拳銃を菊池に手渡した。


今度は俺に拳銃を差し出してから


「この銃で、萩田を殺してみろ」


「何?」


「そしたら、お前の望む答えを教えてやるよ。ただし、殺せなかったらお前は破門だ」


萩田はいきなりのことで戸惑いながらも


「会長、何言ってるんですか」


「なぁ萩田。聞いたぞ。どうやらお前、隠れて〈花川会〉の伊藤若頭と盃を交わしていたみたいじゃないか。それに〈海沢会〉の情報も垂れ流しにしていると聞いたぞ。それもかなりの金を花川会に渡してるみてぇじゃねぇか、口止め料として。例え会同志が盃を交わしてとしても、この会の情報を漏らしているとは、ちょっといかがなものじゃないのか」


「それは嘘ですよ」


「本当だよ。さっき伊藤若頭から聞いたからな」


「じゃあ、証拠を見せてくださいよ」


すると永野は胸ポケットからボイスレコーダーを取り出して再生した。


確かに伊藤若頭の声ではっきりと、萩田が行った罪について話していた。


菊池は俺の方を向き


「どうだ。できるか? まぁ親友同士だから、ある意味の絆も出来ているかもしれねぇが、こんなクズ相手にどうするか楽しみだな」


そう言って椅子に腰を掛けた。


萩田はチンピラ時代から苦労を共にした戦友。


だからこそ、この銃を本当に向けても良いのか、俺は不安だった。


だが、すぐに決心がついたため、俺は拳銃を返し


「このチャカは、まだ血で汚しちゃいけない」


「じゃあ・・・」


俺はすぐに自分の持っている拳銃を取り出してから、萩田を撃ち殺した。


菊池と永野は目を見開きながらも俺の方を見た。


親友とはいえ、会の情報を垂れ流しにする奴は許せない。


それがやくざの世界というものだ。


俺はそのまま菊池の方に銃口を向けて


「じゃあ、約束通り、話して貰いましょうか」


菊池はまさか萩田を殺すとは思っておらず、少し戸惑いながらも


「わ、分かったよ。話すよ。その代わり、もう少しだけ会長にいさせてくれねぇか。若頭補佐にも取り立てるから」


「・・・それは断る。俺は藤沢の親分がいるんだ。裏切ることは出来ねぇ。だが、話してもらうお礼だ。命だけは助けてやるよ」


そう言って拳銃をしまった。


菊池はそのまま洗いざらい、全ての事実を話した。


先代を殺したのも、全て菊池と永野を仕業だとはっきりと言葉に出した。


会長の席が欲しかったのもあり、同じく若頭の椅子が欲しかった永野と共謀し、先代を風呂に沈めて殺したと言った。


「それが真実だ」


だが、俺は何か違和感を持ち始めた。


確かに言葉の辻褄が合っているが、永野は当時〈芽久山組〉の若頭であり、菊池との接点はあまりなかったと聞いている。


いずれかは組長ポストになる人間が、いきなり本家の若頭の椅子を目指すのか。


組長になれば、いずれかは若頭が伸ばせたら手が届くまでの位置まで行けるはずだ。


何か裏があると思った俺は


「分かった」


「頼む、これは誰にも言わないでくれ」


「分かってるよ。それじゃあな」


そう言って、部屋を後にした。


恐らくあの二人の事であるため、俺の口を封じる可能性がある。


これからは用心しないとなと感じながら廊下を歩いていると、タイミングよく、電話がかかってきた。


それは警視庁組織対策課の刑事〈石原〉だった。


「どうした」


『あぁ、ちょっと分かったことがあってな。ちょっと顔出せるか」


「大丈夫だ。今行く」


そう言って電話を切った。

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