消失

岸亜里沙

消失

とある住宅から、朝食を作っていたはずの妻が行方不明になったとの通報があり、巡査部長の一場いちば金堀かなほりは現場に急行した。


現場の住宅に到着すると、旦那であろうスーツ姿の男性が一場と金堀を出迎える。

仕事へ向かう準備をしていたようで、Yシャツのボタンは留まっておらず、顔を洗っていたのか、袖を捲ったままだった。


一場は、玄関に入った時にある違和感を覚えたが、とりあえず状況を確認する為、キッチンへと向かう。

しかしここでも一場は、違和感を感じていた。


「先程、妻はこのキッチンで朝食の準備をしてくれていました。それが突然、姿を消してしまったのです。最初私は、妻はトイレかどこかにいるのだろうと、家中を探しましたが、見当たらず、近所も必死に探し回りましたが、どこにもいませんでした。味噌汁を作っていた鍋も、火にかけっぱなしで、靴も履かず、ケータイも持たずに・・・」


男性は頭を抱えながら、当時の状況を説明する。


「玄関にあったスニーカーは、奥さんのものですか?」


一場が警察手帳を開き、メモを取りながら訊ねる。


「はい。妻が普段外出をする時に使っていました。それ以外の靴も全て収納の中にありました」


「なるほど。では、昨夜の奥さんの様子に不審な点はありませんでしたか?何か思い悩んでいるといった感じは?」


一場は更に質問した。


「いいえ。昨夜もここで妻と一緒に夕食を食べましたが、何も変わった様子はありませんでした」


「そうですか」


一場は小さく頷く。


「まるで神隠しみたいですね。一場さん、どうします?まず近所の聴き込みと、防犯カメラの映像を確認しましょうか?」


金堀が一場に話しかける。


「いや、その必要は無いだろう」


一場の言葉に金堀は目を丸くする。


「ご主人、いくつかお聞きしたい。まず玄関にあった奥さんの靴についてです」


「靴?」


男性も首を傾げる。


「あの靴は、奥さんが普段履いていると仰いましたが、靴の上にかなり埃が積もっていました。本当にあの靴をいつも履いているのですか?」


「あ、いや、もしかしたら私の記憶違いだったかもしれないです」


「なるほど、記憶違いですか。では、昨夜の夕食のメニューは、さすがに覚えていますよね?」


「もちろんです。ご飯に肉じゃがと味噌汁、あと金目鯛の煮付けでした」


「奥さんも同じメニューですか?」


「そうです」


「おかしいですね。昨夜食べた食器がシンクの横に置かれていますが、箸は一膳のみで、食器もどう見ても一人分だけですね。奥さんと食事をしていたというのも、記憶違いですかね?」


「い、いや・・・、そ、それは・・・」


男性は明らかに狼狽していた。

額からは汗が滲み出ている。


「ご主人、本当の事をお話しください。嘘を重ねれば重ねる程、ボロが出ますよ」



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消失 岸亜里沙 @kishiarisa

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