御徒町正一の場合


最初はスズメか何かが地面に落ちているんだろうと思った。

小さくて茶色の小鳥、種類は分からなかった。

道のど真ん中じゃなくて本当によかった。


びくともしなかったから、どうすればいいのか分からなかった。ハンカチにくるんで友達と一緒にテーブルの上にのせて目が覚めるのを待っていた。


他の学生が集まってきて、動物病院に連れて行くとか行かないとか、野鳥保護しちゃいけないだとか、議論が勝手に交わされていた。


しばらくして、アイスが溶けるみたいに、小鳥の姿が変わっていった。形容しがたい何かに変化している。

柔らかな羽毛は硬い鱗に、翼はコウモリのように膜ができ、足は太く爪は鋭くなっていった。


「おい、なんだよコイツ。なんかさっきと見た目が変わってんだけど。

さっきまで鳥だった、よな?」


「よかった、雅樹くんにも同じものが見えているのか。

俺もフクロウか雀だとばかり思っていた。

今はなんだろうな、よく分からないが……」


他の学生もぴたりと静まり、小鳥から離れていく。雅樹は先生を呼びに行った。


生き物にそこまで詳しいわけじゃない。

少なくとも、現代日本に存在する生物じゃないのは確かだ。


「君は何者だ。ついさっきまで、ここに茶色の小鳥がいたんだが、何か知らないか」


正一は静かに問うた。

小鳥だった何かは目覚め、長い首であたりを見回している。危害を加える気はないらしい。


「トリはトリです……姿を持たない主人と仲間がいっぱいいるんです。

けど、トリはトリなのにみんな分からないんです。なぜでしょう」


変な鳴き声でも出すかと思えば、思っている以上に流暢に日本語を喋る。

姿が変わったから、言葉を操れるようになったのだろうか。


「このままだと君は捕まり、どこかに連れて行かれると思う」


トリを名乗った生き物は、困ったような顔をしてゆっくりと起き上がる。


「あなた、ニケ少年の絵にいた人そっくりですね」


「なんの話だ?」


「トリは果てしない時間を旅してきましたけど本当に会えるなんて……喜んでいいのでしょうか」


このトリは何を言っているのだろうか。

全然心当たりがない。


「トリを助けてくれてありがとうございました。

また会えたら、お礼します」


トリは頭を下げて、飛び立った。

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