とある悪魔の場合


扉の叩く音で目が覚めた。

ニコがまた何か変な物を見つけてきたらしい。

自分が油絵なのをすっかり忘れてしまったようだ。


額縁をハードルのように飛び越えた後、自由に旅をしている。

私ものんびりできるから、作品を制作した門下生を探す気も起きないのが現状だ。


絵画に作品名はあっても、描かれているものに名前はない。

モデルとなったニケ少年と区別するため、私は彼をニコと呼んでいる。


外の世界がおもしろくてしょうがないのか、ガラクタを見つけてきては私に話を聞く。雨の日以外、外で遊びまわり、生まれたての子犬みたいに駆け回る。

好奇心旺盛な少年だ。モデルのニケとはだいぶ性格が違うらしい。


「朝から元気だな、もう……」


渋々扉を開けた。ニコの手には、鱗がびっしりと覆われ、コウモリのような翼が生えたバケモノがいた。


「悪魔さん、ちょっとこの鳥さん見てや!

ニケから手紙を預かったって言うんやけど」


「おや、あなたがあの少年の先生ですか?」


「ちゃうで。悪魔さんは先生の先生! この人、すごい魔法使いなんよ!」


ニコはバケモノに笑いかける。

幼体だろうか、そこまで脅威は感じない。

私はそのバケモノを掴みあげ、翼を広げる。


鷹のような立派な爪がある足をジタバタ動かす。

腹部にも鱗が生え、首がやたら長い。


人類が魔改造したバケモノか、私が知らないだけでそういった生物がいるのか。


いや、そんなもんじゃないな。

神に近しい何かを感じる。邪悪な気配の中に、強い信仰心がある。

このバケモノは、神の眷属か何かなのだろう。


全身から発せられる邪悪な気配を我慢できず、私はそいつを虫かごに閉じ込めた。

この檻をそう簡単に破ることはできないだろう。


邪悪な気配を持つバケモノは大声で叫び、害はないと必死に訴えている。


その生物は自らを鳥と呼んでいる。

ニコも鳥だと思い、可愛がっている。


どうやら、周りを茶色の小鳥だと思い込ませる能力があるらしい。


「君は存在自体が邪悪だからね。

無害でも放置はできないんだ。自分が何者か、本当に分からないの?」


「それは悪魔さんも同じやないの? 魔界でブイブイ言わせてたんやろ?」


私が異常なのか。彼らが惑わされているのか。

少なくとも、私は鳥には見えなかった。


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