ニケの場合
僕は生まれつき体が弱く、他の友達のように外で遊ぶことができなかった。
いつも家で過ごし、話し相手は病院の先生か母だ。
二人の話を聞いている限り、病気は治らないらしい。
母は少しでも咳をすると過剰に心配する。
それが鬱陶しくてしょうがなかった。
どこか違う場所に行きたい。
早く死にたいわけではないけど、こことは違う場所がいい。
テレビを見るのも本を読むのも飽きたから、何か他のことをしてみたかった。
一度でいいから、外で思い切り遊んでみたい。
学校は休みながらどうにか通っているけど、友達がいない。
寂しいなんて言ったら、またうるさく騒ぐだろう。
それが鬱陶しくてしょうがない。
そんなことを考えながら、穏やかに死ぬのだろうと思っていた。
そんな怠惰な日々に、亀裂が走った。
母が写真の代わりに絵を描いてもらうと言い出した。
何の脈絡もなかったから、驚くしかなかった。
芸術に興味はなさそうだったのに、いきなりどうしたのか。
詐欺にでもあったのか。気が狂ったのか。
母に何度聞いてもまともに答えてくれないのがひたすらに怖かった。
困惑の中、何もかもが緩み切った男性が現れた。
病院の先生のような人を想像していたから、拍子抜けした。
一応、地元では有名な人らしい。
「なあ、ニック。さっきから何も喋らんやん。
そんなに嫌なら、今日はやめにしようか?」
先生は僕のことをニックと呼んで、自由にさせてくれた。
絵の描き方や見方を教えてくれたり、話を聞かせてくれたり、うるさく言うことはなかった。
あのふっくらした小鳥を思い出す。
童話みたいに愛らしくはなかったけど、退屈しなさそうだった。
せめて、あんな可愛い鳥を飼ってみたかった。
動物の毛が体に障ると言って、母は動物を飼うのを許してくれなかった。
こっそり飼ったら、余計に怒られてしまう。
あと少しでいなくなるんだから、それくらいの自由は許してほしいのに。
「さっき、鳥さんが雨宿りしに来てね。次はいつ会えるのかなって思って」
「……どうりで部屋が獣臭いと思った。
このことは黙っておくから、あまり変なもんを部屋に入れるなよ。
もしかしたら、よその魔法使いから悪さされるかも分からん」
先生はスケッチブックに絵を描いていた。
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