第2話 

 昨日収穫したジャガイモを今日は調理することにした。

 洗って土を落としたジャガイモは皮のまま蒸し器で蒸すとホクホクとしてそのままでも美味いが、割ってバターをのせると「こりゃたまらん」と調理の合間のつまみ食いにもってこいである。

 蒸し器がいい具合に湯気を上げ、ジャガイモに串を刺してみる。串がスッと通ったら熱々のまま皮を剥き、じゃがバターをつまみにビールを飲みつつフォークで潰した。

 

 さてこのジャガイモ、スーパーで購入し食べ忘れたまま芽を出していたものを庭の片隅に埋めた物からできた2世である。


 「ジャガイモの芽には毒があるがあるから取り除くのよ。」と子供の頃のお手伝いの際に母から教えられた。包丁の角で一つ一つ取り除いた記憶の中のジャガイモの芽とは比べ物にならないほど立派で存在感を放っていた。そこで私はこのジャガイモに植物本来の生き方を与えることにし、庭に埋めたのだった。

 種芋となったジャガイモは商品として美味しくなるように年月をかけて品種改良されてきたに違いない言わばご令嬢。そんなご令嬢の種芋に与えられた環境は彼女が育った栄養豊富な畑などではない。庭の片隅の肥料も腐葉土も与えられていない庭木の落ち葉が混ぜ込まれただけの土の中。果たしてこの種芋はこの境遇に何を思ったか思わなかったか我々には知る由もないが、そのような環境にもめげること無く彼女は芽を伸ばし、葉をつけ、日の当たる方へと成長させ実らせた。

 季節は巡り勢いよく伸びていたジャガイモの茎が競り合うようにの伸びていた草の間にトグロを巻くように横たわっていた。そろそろ収穫どきと昨日掘り起こしたのだ。かのご令嬢はみる影もないほどに萎れていた。その身に蓄えられていた栄養を使い切って育てた彼女の分身はかつての彼女を彷彿とさせる芋を一つと一口大の芋を数個、指先ほどの大きさの芋も残してその生涯を終えた。


 潰したジャガイモに小麦粉と塩を混ぜニョッキを作る。ソースは市販のミートソースを使った。一口サイズのジャガイモたちは素揚げし塩を振る。指先ほどのジャガイモは味噌汁の具に仲間入りをして全てを美味しく頂いた。


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