ドンセラの祈り
粟野蒼天
ドンセラ
暗闇に灯される火の光。虫たちは炎に魅入られ自らの身を燃やさんとする。
その光景に私は魅入られている。暗闇の中から様々な音が聞こえてきた。
ドンチャラ……ドドンッ!
ドンドドンド……ガラドガラ!
近づいてくる楽器の音。そして、火の光。
暗闇から打楽器をを携えた屈強な戦士が次々と姿を現した。
一団の中から杖を持った恐ろしい老婆が姿を現した。
「ドンセラ、こっちに……」
老婆は皮と骨だけになった手を差し出してきた。
私がその手を取ると老婆は私を建物の外に連れ出した。
「見よ、巫女様だ!」
「おお、我らをお救いください、巫女様!」
「巫女様!」
「この国をお救いください!」
外に出ると老婆に助けを乞う人々で神殿の前は溢れかえっていた。
人のほとんどは裸で遠くから見ても痩せているのが分かった。
「静まれ!」
老婆が声を荒げると、人々は一気に静まり返った。
骨と皮のどこからそんな声が出るのか不思議でしょうがない。
「ここにいる、アラクスの少女が我らが神の元に貢ぎ、この国に豊穣と反映をもたらしてくれるであろう──!!」
老婆が私のことを指差すと、人々は一斉に私に向かって祈りを捧げ始めた。
私はこの国の飢饉を止めるために神様に貢がれる。今はそのための準備をしているところなのだ。
「ありがたや、ありがたや!」
「これで、この国も安泰だ!」
「子どもが死なずに済む!」
人々が静まり返ると私は再び、神殿の奥深くへと連れて行かれた。
「お食べ」
老婆が料理を用意させ、私は有無を言わずにそれを食べる。美味しい。
今まで食べることもやっとだったのに、美味しいものをお腹いっぱい食べられている。まさに夢のようだ。
「お飲み」
老婆に差し出された器の中には刺激臭の強い液体が入っていた。
私が飲むのを躊躇っていると老婆は声色を強めて「飲め」と私に命令してきた。
怒られたくない、そう思い私は器の中の液体を飲み込む。
「うへぇ〜〜」
液体はとても苦く、臭みもあった。時間が経つと私はぽーっとなり、身体が熱くなり、とっても楽しい気分になった。私は一体なにを飲まされたのだろうか。
そんなこと、どうでもいいや、楽しいな。うへへへ〜〜。
そうして私の意識は深い深い水底へと沈んでいった。
そんなことを何度も何度も繰り返し行われ、とうとう儀式の日が訪れた。
またあの苦くて、ふわふわする液体を飲み、ふわふわしたまま化粧を施し、いろんな装飾品を身に着け私は戦士が運ぶ駕籠のに乗っていく。
どこに行くのかそれは分からない。
私が乗った駕籠は森を越え、大河を超え、山を登った。
そして、遂に目的の場所にたどり着いた。それは高い高い山の上の祭壇。白い雪が積り、吐く息は白く染まる。
私はあの液体のお陰で寒さは感じることはなかった。
「それでは、ドンセラ様。お別れでございます」
私を下ろした兵士は別れを告げると駕籠を持ってその場から去ってしまった。私はこの雪に包まれた祭壇に取り残されてしまった。
あぁぁ……そっか、こうして待っていれば神様が迎えに来てくれるのか。神様、優しいといいな。それと神様、国の皆を助けてあげてください。
私は静かに手を合わせた。
そうして、私は深い深い眠りについた。
──約400年後。
「おい、ジョン大丈夫か!?」
「大丈夫だ、クリス」
俺達はアルゼンチン北部のジュジャイジャコ火山に登っていた。
世界屈指の高さを誇る火山に登頂するのが俺達の長年の夢だった。
「気をつけろよ!」
「分かって……おわっ!!」
「クリス!!」
俺は足元をすくわれ、岩陰に転がり落ちた。
「大丈夫か!?」
「あぁ……大丈夫だ!」
「それなら良かった、上がってこれるか?」
「行けるな。今行く……うん?」
俺はそこで足元にある違和感に気がついた。この雪の下になにかがある。
「ジョン、ちょっと待ってくれ」
「どうした?」
「この雪の下に何かが埋まっている」
「は? 何言ってるんだよ、こんなところに何が埋まってるっていうんだ」
「分からないが掘り出してみる」
俺は好奇心に駆られ雪に埋もれているものを掘り出した。
「な……これは!」
「なんだ、なにがあったんだ?」
そこにあった。いや、いたのは薄着で化粧をしたまだ幼下の残る少女だった。
「人だ! 女の子が埋まってるぞ!」
「はあ、ちょっと待ってろ!」
俺達は二人がかりで少女を掘り出した。
「これは……」
そこに眠っていたのは石造りの祭壇でうずくまり手を合わせ、なにかに祈りを捧げている少女のミイラだった。
ドンセラの祈り 粟野蒼天 @tendarnma
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