三月生まれの女の子【KAC20251・ひなまつり】第二弾

カイ 壬

三月生まれの女の子

「三月生まれの女の子って得だよね」

 私はその言葉が嫌いだった。成人するまでの間に、得をした経験がないからだ。

 ムスッとした表情を浮かべた。

「どんな得があるんですか」

「だって三月にはひなまつりがあるじゃない。となれば女の子は毎年必ずお祝いされることになるよね」

 そのとおりではある。しかしそれがイコール得とはならない。

「確かに祝い忘れることはないでしょうね。でも得した経験はないわ」

「えっ、そうなの。だって、三月生まれの女の子なら、ひな飾りで賑わうだろうし、菱餅だったりひなあられだったり、そういうの食べ放題じゃない」

「たとえば十二月生まれならクリスマスがあるわよね。部屋は飾り付けられ、クリスマスツリーが置かれ、クリスマスケーキが用意されている。異論はないわよね」

「でもそれで三月生まれの女の子が得じゃないとは言えないような」

 腕組みをしながら私に視線を送ってくる。

「それじゃあ、十二月生まれの子は誕生日プレゼントをもらえるのかしら」

「もらえるんじゃないの」

 首を傾げている。

「普通の家庭だと、十二月生まれの子の誕生日プレゼントは、クリスマスプレゼントと一緒にされるのよ。つまり他の多くの月生まれなら一年に二回プレゼントをもらえるけど、十二月生まれというだけでプレゼントは少なくなるものなのよ」

「言われてみればそうよね。でも三月生まれの女の子が得をしない理由にはならないわよね。ひなまつりはプレゼントをもらえるわけじゃないんだから」

 いまひとつ合点がいかないようだ。

「三月というと普通どんな月だと思う」

「そうねえ。卒業式かしら」

「卒業式があるってことは、修了式もあるわよね」

「ああそうか。三月になると年度が終わってクラス替えか」

「修了式後だとお誕生日会は開けないし、家でお誕生日パーティーを開いても人が集まらない。しかもひなまつりがあるせいでごちそうにもありつけないし、お誕生日プレゼントももらえない。完全に不遇な月なのよ」

「とくに女の子にとってはクリスマス同様ってことか。三月生まれの女の子って、思っていたよりも得をしない、というか、損しているかもしれないわけか」

「わかればよろしい」

 私は満面の笑みを浮かべた。


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