ひなまつりには、何をしようか

三門兵装 @WGS所属

特別な日、ひな祭り

 私の家には小さいなりにも5人囃まではいるひな壇がある。

 流石に7段飾りほど豪華絢爛ではないけれども、五人囃子まではちゃんといる綺麗な日本人形のお雛様。

 私の知らないうちに押し入れの中に出現していたから、私が塾にでも行っていたときにでも出してきていたのだろうか。


 ちちちち、ちちちち。

 ぐっと踏みとどまるように一拍を空けてその音が止まると

 「灯りをつけましょ、ぼんぼりに━━」

 オルゴールの高い音が部屋に響き始める。

 そのメロディーが急に止まったかと思ったら、もう一度ねじを巻く音。

 ちちちち、ちちちち。

 妹が遊んでいるんだろう。うんうん、楽しいよね。確かに私も小さい頃はそうやっていたや。

 

「ね、この菱餅を全部おんなじ形に4つに分けて?」


 でもさ、怒られちゃうよ?

 

 折角の楽しい雰囲気に怒鳴り声や泣き声が響くのはご勘弁。

 私の妹はすぐ泣くから……いや、それこそ私も昔はそうだったか。

 なんて、うっすら自嘲気味に笑ってみる。

「どーしたの?」

 自分の椅子に座って私の服の裾を引く妹が私を見上げる。

「えっとね、このお餅を全部四角にして分けてほしいの」

「わかったー」

 

 えっと、ここをこうとこうするの!

 

 妹はにっこにこで答えつつ、刃なし包丁で私の言ったとおりに餅を切り分けていく。

 ……むう、失敗。ちょっと悩んでいるところに格好でもつけてみせようかと思ってたのに、これじゃあ私の出る幕なしじゃないか。そういうのすぐ思つくの、すっごく嬉しいけどさ。


 菱餅にひなあられ、ひな祭りのお菓子たち。

 私も妹もひなあられは甘じょっぱいしょうゆ味のが好きで、それを「あたり」だなんて言ってはしゃぎあう。

 ああ、楽しい。



 あのね、つくったのー!


 菱餅をぺろりと平らげてしまった妹は、何色ものひらひらを張り付けた折り紙の扇を自慢げに掲げてみせて。

 これね、10色も使ったんだよ!

 どこか興奮しながら語る妹は折り紙でお雛様を作るらしい。

 

 ねえ、私の妹。

 昔は、紙で雛人形を作って川に流す「流し雛」っていうのをしていたんだってさ。

 小学校でなにをしたんだーって楽しそうに笑う君には、何か流したいものはあるのかな?


 ねぇ、紙人形のお雛様?

 どうか妹から穢れを連れ去って、守ってやってくださいな。

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