「ひな人形」みたいって言われた地下アイドルが、ちょっと微妙

独立国家の作り方

センター恋しや地下アイドル

 僕は今、絶賛推しているアイドルユニットがある。しかし、その人気はかなり微妙で、 正直解散寸前といえた。

 理由は明白で、メンバー全員が、なんというか、今時いまどきではない容姿だ。 付いたあだ名は「ひな人形」


 平安絵巻を彷彿とさせるその容姿は、アイドルとして色々迷走してきたこのグループの歴史そのものと言える。


「みなさーん、こんにちはー! 今日は来てくれてありがとう!」


 ステージ中央で元気にマイクを持っているのは、グループのセンターを務めるリーダーのムラサキシキブちゃん。


 十二単じゅうにひとえをイメージした平安風衣装は、何を間違えたのか、太ももはしっかりと露出されていて、アイドルを意識しているデザインだ。


「今日は新曲『人生五十年』、お披露目になりまーす! それじゃあ、いっくよー!」


 いや、いっくよーじゃないだろ。もう色々突っ込みどころ満載だよ。 大体、人生五十年って、本能寺じゃん! 織田信長じゃん!


「人~生~ ♪ ごーじゅうー~~ ねーん〜 いよぅっ⤴」


 曲が始まったが・・これは誰向けの・・・・何?


 怖いよ、なんか舞台演出なのか、暗いし、赤いし、顔白いし、眉毛どっか上の方だし! いや、狙いなのは解る、アイドルグループとして、もはや地下から抜け出せない立ち位置だから、色物に走ったその事情は十分に理解できる。


 だけど、なに、この演出! 


 一番端っこの子なんて、切腹始めちゃってるよ! 


 森蘭丸の最後? どうでもいいわ! ってか、怖いって、演技が迫真過ぎて、本能寺の変、実際に見てきた人かと思うわ! 


 でも、センターのムラサキシキブちゃん・・・・もう、僕の好みなんだよな、ド・ストライク

 変な髪形、微妙なスタイル、オカメ納豆の表紙みたいな・・・・笑顔。


 でも、そこがまたいい!


 彼女だって解っているんだと思う、このユニットがもう詰んでいるって。


 それでも、一所懸命に考えて、お客さんを喜ばせようって、そんなアイドルとしての気配りが僕には伝わってくる。


 一般のお客さんには解らなくても、僕には解る。だから、ムラサキシキブちゃんの推しカラー、京紫色のペンライトを全力で振った。

 この想いが届きますように、って。


「どうもありがとう!  盛り上がってきた所で、昨年リリースした曲『平将門たいらのまさかど』、お聞きください!」


 ああ、これ去年、物議を醸した話題の曲だ。


 平将門って、千代田区にある「将門の首塚まさかどのくびずか」の将門だもんな。 曲の間奏部分で首が飛んで行く演出は、さすがに問題になった。


「まーさーかーどーの一  ♪ くび~ いい~っ  いよぅっ⤴」


 どんな歌詞だよ。ってか、だから怖いよ! 暗いし赤いし顔白いし、あれだけ問題になったのに、結局首が飛んじゃってるし! 


 ハードロックを意識したベースの重低音、アップテンポな曲の始まりと、全然噛み合わない歌詞と舞い(舞い?)。

 それでもつづみ神楽かぐらとベースとドラムが、意外と合うもんだと変な関心をしてしまう。 しかしよくこんな曲、よくもまあ企画会議通ったもんだ。運営も攻めたな。


 ・・・・でも、やっぱり魅力的なんだよな、シキブちゃん。


 そう言えば、シキブちゃんって、どこかで見た気がするんだよな・・・・あ、お○ゃる丸に、 こんな子いたよな。

 色々恥ずかしいだろうに、それでも堂々と・・・・舞う(舞う?)


 アイドルを推す男子が、絶対に考えてはいけないことかもしれないけど、シキブちゃんがもし僕のお嫁さんになったら、きっと幸せだろうな。

「旦那様一、朝ですえぇい一」

 なーんてね(笑)!  もう僕は、なんて恥ずかしいことを考えいるんだろう。そんな未来が来るわけないのにね。


 でも、そんな風に起こされたら、きっと気持ちの良い一日を送れるんだろうな。

 あの十二単みたいな衣装で、寝ている僕の上に乗っかってほしい。きっと・・・・重いんだろうな。


 あの顔の白いのは、白粉おしろいなのかな。僕には君の素顔を見せてほしい、眉毛も本来の位置に戻して。

 世間は気付かないと思う、君が元アイドルだってこと。


「それでは本日最後の曲となりました。今月は3月、女の子の月! といえば、もうこの曲しかないよね! 『ひなまつり』! 」


 お、なんか珍しくアイドルっぽい曲がチョイスされた。 そんな曲あったんだな?  長くファンやっているけど、初めて聞く曲だ。


「ひーなーま一つりー♪ の一  くび〜 いい~っ いよぅっ⤴」


 いや、それは去年物議を醸した話題の曲だろ!


 こうして聞いていると、メロディーラインが全部「人生五十年」とほとんど同じだってバレるよな。 低予算とはいえ、この雑っぷりは凄まじいな。


 そう思っていたら、前に陣取っている古参のファンが、隣のファン仲間と話しているのが聞こえた。


「このユニットもさ、もう解散近いと思うんだよね。でさ、フリーになってアイドル辞めたのを見計らって、俺シキブちゃんにアプローチするの考えてる訳よ」


 酷いこと言うな、って思ったけど、考えてみたら僕も似たようなものだしな。 ・・・・意外とライバル、多いんだな。

 そんなとき、このユニットにしては珍しく足を大きく上げる舞になると、少しだけスカートが開けてしまった。

 それを恥ずかしがるシキブちゃんは、平安貴族の娘なんかじゃなく、等身大の女の子だった。


 僕はシキブちゃんに、もう少しアイドルでいてほしいと思うのだった。

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