Boys Love+1

あづま乳業

Boys Love+1

 男子って、どうして男子同士でつるむんだろう。

 

 小学校の教室、私は教卓の前でじゃれ合う琢海たくみ颯太そうたを、一人蚊帳の外で眺めていた。


 ハムスターみたいにくっついちゃってさ。

 まるでボーイズラブみたい。

 

 文集係は私たち3人だけ。だから放課後、先生を待つ間、いつも私は邪魔者だった。

 

 琢海曰く、女子は宇宙人なんだって。

 男の友情は固いね。私の入る隙間はないほどに。


 男の友情は、恋そっくりに見える。だけど、そのつもりは1ミリもないらしい。BLはファンタジーなんだ。


 男子って人を好きになることあるのかな?

 二人が恋をしている姿とか、なんか想像つかない。



 私は月刊少女マーマレード(通称・少マ)で顔を隠していた。 

 少マは巻頭から巻末までキスシーンで埋め尽くされて、我ながら「やばい」ってなる。

  

 

 ――キスしたい。

 

 した子によると、やばい、らしい。

 

 

 お母さんはいう。

 どんな男の子にも「女の子を好きになる日」がくるって。

 

 そしたら男の子は、気持ちが替わったように女の子を大切にし始める。

 男同士でじゃれ合うことは、あまりなくなるんだって。


 でもそれはいつ? 卒業してからじゃ遅いよ。



 運動得意な琢海と、頭がいい颯太。 

 二人ともいい奴だけど、颯太の方が大人びて、やさしい。


 だから私は、颯太に告白した。


 すると颯太に笑って「ごめん」と断られた。

 

 ああ、やっぱり。まだ早かったんだ。

 私は急に怖くなった。


「ね、颯太。言いふらしたりしないよね? 私が告白したこと」


 すると颯太は。


「しないよ。信じられないなら僕も好きな人を教える。それでお互い内緒にしよう」


 私にこっそり教えてくれた。

 

 

 ――琢海のことが好きだって。

 

 

 それ、私より言ったらまずい秘密じゃない?



 この世には。

 最低でも3%くらいは男子が好きな男子がいるらしい。

 だから男子二人がいたら33組に1組。

  

 BLは案外ファンタジーじゃない。

 

 颯太はいう。

 自分の運命を知った時、やっぱり悩んだって。

 

 いつか琢海が「好きな女の子ができた」って言い出す日が怖い。

 その日が来たら、自分の一生一度、好きな人と両思いでいられる時間は終わりだから。

 それまでは琢海と一緒にいさせてって。

 

 そしたらもう誰も好きにならないんだという。

  

 男の子を好きといえば、相手を傷つける。

 女の子を好きといえば、だましてることになるから。

 


 

 

 ☆☆☆

  

 ある朝、教室がざわついていた。

 

 琢海が女子に呼び出されたんだって。


 なんか、告白するらしい。

 

 その女子、もう廊下にいて。

 ねえ、これ成功したらどうなるわけ?

 

 琢海がその子と少マみたいなことするの、耐えられない。

 ――だってそれじゃ颯太が。

 


 私は廊下に飛び出ていた。


「だめっ、告白しちゃだめっ!」


 廊下中が私に振り返っていた。

 

 こんなの、私も告白したようなもの。

 でも、本心は。

 

 ――颯太を守りたかったんだ。

 

 

 わなわな震えていると、友達が心配そうに私を見てる。

結菜ゆいな、泣いてるよ? 大丈夫?」


 見られてよけい涙が止まらなくなる。

「ごめん」

 私はふらふらと女子トイレへ向かった。


 するとすれ違いざま、琢海が呟いた。


「結菜、大丈夫、俺、誰とも付き合わないから。卒業までは颯太といるから」

 頭ん中じわってした。

 

 琢海は鈍感なふりして、みんな気づいてたのかも知れない。

 

 颯太の気持ちも。

 私の、分かっちゃいない恋も。



 

 ☆☆☆


  

 ――数年後。

 

 私は琢海と付き合っている。


 放課後の改札を出て、私はマフラーに顎を沈めた。 

「琢海とこうなるなんて思わなかったな。ねえ琢海、私好きになったのいつ?」


 すると琢海は空を見上げた。

 

「小学校の頃、結菜が告白止めただろ。すっごい泣いて」

「……あの時?」


「あの時、女の子ってかわいいなって思ったんだ」


 ああ、やばい。また泣く。

 私は顔を空に向けて涙を堪えた。


 琢海は駅舎の影に私を隠してくれた。

 

「結菜は泣き虫だな」


 キスを、する。

 もう何百回しただろう。大好きな日にも、本当はちょっと嫌いな日にもした。でも泣いてる日にするのは7度目。

 

 そのたび颯太を、何百回も傷つけてる気がして残酷と思う、恋は。

 でも。


 ――琢海、大好きだよ。

 

 

「琢海といるうちは言われ続けんだね。告白止めたこと」

「一生言えたらいいな」

 そんな歴史で充分。今日も明日も一緒にいたいよ。

 


 ふと。

 颯太が気になった。

 頭いいから、別の学校に行ったけど。


「ねえ琢海、颯太どうしてる?」

 すると琢海はしばらく黙り込んでいた。


「もう連絡つかないんだ」

「えっ?」


「好きな子できたら、その子に何でもしてやりなよって。最後に『さよなら、ありがとう、またね』って」


 あっ、と思った。

 好きだからこそ一緒にいられないんだ。


 そして最後まで、言えなかった。

 

 ――大好きって。

 

 またね、大好きって。

 

 またねって、どれほど遠い「またね」だろう。

 生まれ変わったらって意味かも。


 言えない恋は、透明なんだろう。

 思春期の到来。見えないまま消えたBLがいくつあるのだろう。



 BLは男子二人33組に1組だから、案外ある。


 でも。

 両思いは33×33。1089組に1組以下だった。


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