【KAC20251】桃花の力で異世界の瘴気を祓います!
温故知新
桃花の力で異世界の瘴気を祓います!
ここは、桃神神社。
平安時代から続く由緒正しき神社であり、私『桃原 華』の実家である。
その桃神神社ではひなまつりの日、境内に植えられた巨大な桃の木に邪気を払う鮮やか花が咲き誇る。
淡い桃色の花弁と甘やかな香りを放つ桃の花は、なぜかひなまつりの日にしか咲かないため、毎年多くの参拝客が美しい花を見に訪れる。
そして、桃神神社に代々、大切なお役目を任せられている。
それはひなまつりの日、桃の木に選ばれた巫女が、異世界の扉から放たれる瘴気を祓うことだった。
ここ桃神神社の地下深くには、異世界に通じる巨大な扉がある。
いつ出来たのか不明なその扉は、ひなまつりの日にだけ開かれ、そこから人間の命を簡単に奪ってしまう凶悪な瘴気を漏れ出る。
幸い、扉の真上に聖なる力を宿す桃の木があるお陰で、参拝客や神社に仕えている人達に影響はほぼ無い。
けれど、瘴気を抑える分、桃の木に咲く花は枯れ、桃の木そのものの寿命も縮む。
そのため、桃神神社は代々、桃の木に選ばれた仕える巫女は瘴気を祓うために、桃の花が咲く小枝を持って瘴気の元凶である異世界に行き、桃の花に宿る聖なる力を使って瘴気を祓うのだ。
「それじゃあ、お母さん! 今から行ってくるね!」
桃の花の美しさに参拝客が見惚れている中、代々伝わる桃色の袴に身を包んだ私は、桃の花がついた小枝を持って、地下深くにある扉の前に立つ。
幼い頃、大切なお役目を果たした後のお母さんの清々しい顔を見て、私もお母さんのような巫女になりたいと思い、毎日欠かさず神社の手伝いをしながら巫女になるための修行をしていた。
そして月日が経ち、16歳になった私はようやく、桃の木に選ばれて異世界に行くことになった。
「華、気を付けるのよ」
「うん! 行ってきます!」
心配そうに見つめるお母さんを安心させたくて、満面の笑みを浮かべた私は元気よく異世界に繋がる扉をくぐる。
すると、そこに待っていたのは、瘴気に満ち溢れた広大な大地だった。
「お待ちしておりました。聖女モモハラ様」
声をかけられ振り向くと、扉のすぐ近くには、神官らしき人達が大勢いた。
この人達は、万が一に備えての神官様達だとお母さんから聞いた。
ちなみに、異世界では小枝を持って現れた巫女のことを『聖女』と呼ぶらしい。
何でも、聖なる力を持つ女性だからそう呼んでいるとのこと。
深々と頭を下げる神官の皆様に、小さく深呼吸をした私は声をかける。
「お待たせ致しました。早速、取り掛かってもよろしいでしょうか?」
「はい。よろしくお願いします」
深々と頭を下げられたまま返事をされて、むずがゆい気持ちになった私は、目を閉じて大きく深呼吸すると意識を集中させる。
そして、光が差さない瘴気まみれの大地に向かって舞を始める。
この舞は、瘴気を祓うために特化した特別な舞である。
『華、この舞は瘴気で苦しんでいる人達が救われるように願って舞うの』
幼い頃にお母さんから教わり、そこから毎日練習をしていた。
だから、すっかり踊り慣れた舞だけど、1つ1つの動作に願いを込めて、いつも以上に丁寧に舞う。
瘴気が消えるように。
少しでも多くの人が救われるように。
祈りを込めて舞っていると、いきなり体が軽くなった。
お母さん曰く『心から祈れば、神様が桃の花に宿る聖なる力を与えてくれて、体が羽のよう軽くになる』とのこと。
つまり、私の祈り桃の花に届いて、聖なる力を私に与えてくれたのだ。
――良かった、神様にもちゃんと届いた。
すると、周囲からどよめきが起こった。
恐らく、私に与えられた聖なる力が少しずつ瘴気を晴らしているのだろう。
――お願いです、神様。どうか、この瘴気を祓ってください。
そう願って舞を終えた瞬間、持っていた小枝が消えた。
「えっ!?」
突然小枝が消えて驚いた私が目を開けると、そこには眩い光が降り注がれた緑豊かな大地が広がっていた。
「綺麗~~!!」
――こんなにも美しい景色、初めて見た!
どこまでも広がる山々の美しさに見惚れていると、突然手が取られた。
「モモハラ様! ありがとうございます! お陰で我が国は救われました! さすが、伝説の聖女様です!」
お母さん曰く、この世界では各地で瘴気が起きるらしく、その度に異世界の扉が開かれて、巫女が呼ばれて瘴気を祓うとのこと。
だから、来年のひなまつりにも助けを求めて異世界の扉が開かれるだろう。
その時は、桃の木が選ぶのだろうけど......願わくば、私でありますように。
だって、こんな素敵な景色が侵されるなんて許せないし、神様に仕えている巫女として人々が苦しむ姿を見たくないから!
「私も、皆様の世界が救えて良かったです!」
「聖女様〜!」
咽び泣いて喜ぶ神官さん達の顔を見て、私は『この世界を救えて良かった』と安堵し、心の中で神様に感謝した。
その後、無事にお役目を終えた私は、元気よく元の世界に帰った。
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