諦めなかっただけで寝取りとか言われた件

他津哉

――失恋という始まり――


 初恋というのは突然来る。それは恋に無関心だった俺みたいな男でも同じだ。だから俺は今、一世一代の勝負に出ていた。


壱ノ瀬いちのせさん……すっ、好きです、付き合って、下さい!!」


「ごめんなさい、私……他に好きな人がいるの!!」


 そして敗れた。いっそ清々しいくらいアッサリ振られた。こうして俺の初恋は終わった。三田 静己みた しずきの初恋は終わった。


「分かってた……ありがとう答えてくれて」


「……えっ?」


 少し陽の傾き始めた空き教室は告白するにはベタな場所だ。感傷的になった俺だが最後に彼女にエールを送った。


「じゃあ壱ノ瀬いちのせさんも頑張って……応援してる」


 そう言って彼女の幸せを祈った。これで心残りは無い。先日、偶然にも学年一位に戻れたし大学受験モードに切り替えられる。


「あの、三田くん……」


「壱ノ瀬さん、俺、振られたから帰りたいんだけど……」


 もう綺麗な思い出にしようとしたのに振った相手が声をかけて来た。だから俺は改めて告白した相手、壱ノ瀬 明凛亜アリアさんに向き直る。


「ごめん、でも聞きたいこと有って」


「……何かな?」


「私のどこを好きになったの?」


 理由は多く挙げられるが壱ノ瀬さんは俗に言う学園のマドンナというやつだ。優しくされたら俺みたいに勘違いして告白する人間が続出するだろう。


「初めて会った時、俺を励ましてくれた……それから何度か会う度に俺のつまらない話を聞いてくれた……それが嬉しくて気付けば好きになってました」


 そこで思い出すのは彼女との出会い……去年の話だ。




「また……負けた」


 高校に入ってから学年三位が定位置だった。これでも地元では常に一位で秀才と呼ばれていた。だが上には上がいた。俺より勉強ができる人間が隣のクラスに二人もいたんだ。


「どうする紅林さん? また勉強会する?」


「今日こそ木崎くんに勝つための方法を教えてもらうわ!!」


 学年一位と二位の二人は学園ツートップカップルなんて呼ばれている。そして紅林が木崎に気が有るのは恋愛に疎い俺でも分かった。恋をしながら成績も上の二人に嫉妬と羨望の目を向ける事しか出来なかった。


「勝てないな……あの二人には」


 寝ないで勉強した日も有った。だが姉を始め家族は一位から転落して良かったと笑っていた。だから悔しくて必死に勉強した……でも勝てなかった。そんな時だった彼女に声をかけられたのは……。


「凄いよね~、あの二人」


 呆然と張り出された成績順位表を見ていた俺の前に彼女は現れた。緩いウェーブのかかった栗色の髪と赤いヘアバンド、モデル並みの小顔に整った目鼻立ち特にアーモンド形の瞳が特徴的な美人がそこにいた。


「いきなり、誰ですか?」(なんだ、この美人?)


「え? 三田くん……私、同じクラス……なんだけど?」


 若干ショックを受けたような顔を今でも思い出す。当時は名前すら知らなかった。そこで改めて自己紹介されたのが彼女との出会いだった。


「これは、とんだ無礼を……」


「ぶ、無礼って……いいよ別に、でも三田くんってクラス一位で学年三位なのに、クラスメイトの名前も覚えてないの?」


 その安い挑発は俺の自尊心を傷つけ同時に奮起させた。後で聞いたら本人は悪意無く言っていたのが判明したが俺は彼女の言葉で奮起していた。


「これは手厳しいな……それで俺に何の用?」


「悲しそうな目が……気になって」


「それは勘違いです。明日からまた学年一位を取りに行くのに忙しいので悲しんでなんていられませんから」


 そして生まれて初めて女性の前でカッコつけたいと思った。それが俺の恋の始まりだった。



――――現在


「……そう、なんだ」


「ええ、他にも文化祭の委員の仕事、図書室で勉強した時、全てが楽しかった……君の、壱ノ瀬さんのお陰で俺の世界は変わった」


 彼女と出会い話すようになって俺の高校生活は大きく変わった。主に彼女と関わるための変化だったが姉にまで相談し家族会議が開かれたくらいだ。


「……ありがと、そこまで想ってくれて……」


「それで? 何でそんなことを?」


「いや……その、ヒロが……」


 そこで出て来た名前に内心で溜息をつく。俺の敗北の原因であり彼女の想い人の幼馴染、外山 紘論とやま ひろときの話が出たからだ。彼女の話題は彼中心で美術部期待の星である彼に俺まで詳しくなった。


「コンクールを控えてると聞きましたが?」


「うん……それで最近、避けられてて……」


 中学から距離が離れ始め同じ高校なのに会話も極端に減ったらしい。ただ休日は家が近所で偶然会うと買物に付き合うとも聞いている。だから仲が悪いという話では無いと前に聞いた。


「それで俺に話を?」


「うん……ごめん、迷惑、だったよね」


「気にしないで下さい……明日からは普通の友人に戻れると嬉しいです、じゃあ」


 だが、この時の俺は失恋よりも別なことが気になり一つの考えが脳裏をぎった。


「ありがと……三田くんが良い人で良かった、じゃあね」


 教室に一人残された俺は別な事を考えていた。それは単純にして一つの解決方法だ。


「良い人だと思ってるのは君だけだ壱ノ瀬さん……俺は諦めが悪いらしい……」


 夕焼けが眩しいと思いながら俺も教室を出た。

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諦めなかっただけで寝取りとか言われた件 他津哉 @aekanarukan

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