第3話 対峙
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最近、登録者数が伸び悩んでいる。
地元のグルメ紹介やデカ盛り、激辛などそろそろ行く店がなくなって、動画コンテンツをどうしたものかと悩んでいた。
なんとなく付けていたテレビをボーッと見ていると、地元グルメの紹介があった。
「ここもう行ったし、テレビでやる程のことかね〜。」
と呟いていると、すぐ奥に廃墟らしい建物が写っているのを見つけた。すぐにgoogle mapで場所を確認し、撮影の準備を始めた。
時間はまだ15時36分。
行くにはまだ早い、動画用にネットで情報収集でもするか。
"安城市 廃墟 心霊"
検索結果の一覧には、知恵袋にまとめサイト、tiktokにFC2のサイトと、すべて見たがそれらしい記事は出てこない。
初めて取り上げれば、それだけ話題性があるかも!とやる気が湧いてきた。
事前情報が無い分、なにかストリートを考えないとな。
オレのチャンネルに調査依頼が来た感じで進めれば、恐ろしげな噂を作れるなと、調査依頼をでっち上げることにした。
以下が考えついた調査依頼の内容だ。
"〇〇chさま
いつも楽しく拝見しています。
地元愛知県安城市で、奇妙なスポットがあるので調査の依頼をお願いしたいです。
そこは、何十年も人が住んでいなくて今は廃墟になった一軒家です。
家の近所を通ると、たまに人の気配がするんです。
誰もいないはずなのに。
その家に入った友達の話では、階段を上がったすぐの2階の所で、男性がぼぅっと立ってコチラを見ていたって言うんです。
それを聞いてすごく怖くなって、ぜひ真相を解明して欲しいです!
よろしくお願いします。"
中々イイ内容だな。これで行こう。
もう17時を過ぎて外は薄暗くなっていた。
そろそろと機材をリュックに詰めて自転車で廃墟へ向かった。
テレビで取り上げられていた飲食店の手前を曲がり薄暗い路地に入って少し行くと目的の建物が見えてきた。
古びた家が多い住宅街の中にあるその建物は、周りの家よりさらに古い感じがした。
家の周りには塀があり、塀の中に自転車を停めて、玄関前で撮影をスタート。
「どーも〇〇chです!今回は、地元安城市にある廃墟に潜入し依頼内容が本当かどうかを調査したいと思います!」
とオープニングを撮り、先ほど考えた依頼文を朗読。
「2階に男性なんて、怖しいですね〜!では実際に中はどうなっているか確認してみましょう!」
玄関の鍵は空いていて「お邪魔しまーす」と入っていくと、物が多くてまるで今まで人が住んでいたみたいです。
玄関を入ってすぐ左側が階段になっていて「この階段を上がったところで男性が立っている。想像すると怖いですね〜」と言いながら、右手の扉を開けると食事用のテーブルと椅子が一脚あり奥にキッチンがあった。皿やフライパンなど流し台に汚いまま残っていた。
雨戸は全て閉まっており、懐中電灯とスマホの画面の灯りだけで雰囲気は十分だった。
「これで何か起こってくれれば、再生回数稼げるぞー」と張り切った。
続いてトイレとお風呂。
特に何もなく、ただただ汚いなと感じるのみだった。一階最後は、一番奥の小さな和室だ。「頼むから何か出てくれ」と襖を開けるが、特段変わった様子はなく、他の部屋同様に生活感があるだけの和室だった。
ため息混じりに、和室を出て階段下まで歩いた。
「さて、階段下までやって参りました。この階段を登ると、そこには男性が立っているのでしょうか!それでは一段ずつ上がっていこうと思います。」
階段は1階からは2階が見えないようにぐるっと途中で折れており、中二階の踊り場までゆっくりと登る。登るたびにギシッギシッと軋む階段。
カメラを2階の方に向けながら、ゆっくりとした足取りで登ってゆく。
中二階まで登り振り向いたが2階には男性の気配はなかった。
安堵と落胆とが一緒になって心に来る。
2階へ上がると、短い廊下が有り、前と右に扉があった。
まず右の扉を開けたが、寝室として利用していたのだろう、布団が敷いてあるくらいで特に変わったところは無かった。
「さていよいよ最後の部屋です。ここには一体何が待ち構えているのでしょうか!」
と布団が敷いてある部屋の襖を開けて、隣の部屋へ。
「ウッ。カビ臭っ!」
この部屋だけいおうに臭い。
奥を照らすと黒い影のような〜シミがあった。そのシミを見てパッと思いついたことを話す。
「…ここで男性が亡くなったと言われています。ここでしばらくその男性を待っていましょう。」
寝室との間の襖を閉めてカビ臭い小さな部屋で待機することにした。
時計を見ると、まだ19時前で特にやることもなく、部屋の真ん中に腰を下ろして静かにしていた。
動画的になにか起こってくれなきゃ再生数が…。でも実際に何か起こったら…。自分の中で、様々な想いがあった。
全く物音がしない。たまに車の走る音がする程度でそれ以外、一切音はしなかった。すると耳元で突然音がした。
「チッ」
バッと振り返った。
何もいない。
すぐ後ろで、舌打ちする音が聞こえたが、そこには何もいなかった。
嘘だろ。
この家は幽霊が出るような曰くなんて全く無いのに。
時間は21時になろうとしていた。
2時間もいるし、そろそろ帰るか。収穫ゼロで落ち込んでいると。
ギシッ、ギシッと階段を上がってくる音がした。突然の人の気配にただただ怖くて何もできずにいた。それはいいゆっくりと階段を上がって来て、2階の廊下で止まった。
扉を開ければそいつと鉢合わせてしまう。
息を殺して、キョロキョロと周りを確認して逃げ道を探したが、どの窓も雨戸が閉まっていて逃げる所はない。
「どうしよう。どうしよう。どうしよう。」
グルグルと考えたが全く何も思い浮かばず、嫌な想像ばかりしてしまう。
まだ居る。
気配でそう感じる。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。緊張がピークに達しおかしな考えに行き着いた。「ダッシュで行けばなんとかなるかも」と、ゆっくりと立ち上がり、走る体制になった。
「…3、……2、………1。」
ダーッと扉を開けると、
いた。
動けなかった。
男性が話しかけてきた。
「何してるの?」
聞かれても何も答えられないし、どこにも逃げ道がない。
もう一度聞かれる。
「何してるの?」
男性はこちらをジッと見ていた。
とある一軒家にまつわる話 吉田無田 @yosida-muda
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