第12話

③新井貴浩(あらいたかひろ)【内野手】背番号25(39歳)


 広島市出身。カープファンから最も愛され、かつて最も憎まれた男。

 何事にも全力でがむしゃら、でも不器用。笑いと感動をファンに与える存在、それが“アライさん”。


 カープ入団当時、監督もコーチも呆れたぐらい野球が「ど下手くそ」だったそうです。

 でも、泥まみれになって誰よりも多く練習して、試合に出させてもらっているうちに、カープを代表する首位バッターに成長し、地元広島のカープファンからそれはとてもとても愛されたのでした。


 しかし、07年オフにFA権を行使して、こともあろうに敵である阪神タイガースへ移籍。


 それは、新井に惜しみない愛情を注いできたカープファンの目には「裏切り行為」と映りました。

 しかも退団会見で涙をぼろぼろこぼしながら「カープが好きなのでつらいです」と泣き言を言う。

 泣くほどつらいんじゃったら移籍せにゃぁええじゃろーがッ!とファンの感情はますます逆撫でされるばかり。

 それ以来、カープ対タイガース戦で新井貴浩が打席に立つたびに轟々たるブーイングの嵐が起きたものです。


 その後、タイガースでも活躍し、大阪の虎党にも愛されてきたのですが、年々選手層が厚くなるタイガースでは次第に出場の機会が少なくなり、代打としてベンチに控える毎日。

 ついに14年オフに大幅減俸を受け、自ら自由契約(解雇)を申し入れて退団。


 そんな新井に、真っ先に「帰ってこいや」と声をかけたのが、まさかまさかの「かつて自分が裏切った」はずのカープでした。


 新井さん、相当悩んだそうですよ。

 何人もの人に「ホンマに戻ってええんじゃろうか。カープに戻れたらすごい嬉しいんじゃけど、カープファンに許してもらえるじゃろうか」と不安そうに相談していたらしく、こういうところが新井さんの可愛らしさ。

 でも「ヤジられてもええ、やっぱり戻りたい」と決断。

 ちょうどアメリカで黒田も同じように悩んでいると知って「また一緒にやりましょうよ」と声をかけたのだそうです。

 その結果、同じ年に出て行った2人の男が同時に戻ってくる、という奇跡が起きたのでした。


 そんな新井を、ファンはヤジるどころか「お帰りなさい」と満場の歓声でお出迎え。

 ベテランになっても泥まみれでがむしゃらに頑張る新井さんが、なんだかんだ言っても大好きなのです。


 新井が打席に立てばファンは喜ぶ。


 大きなホームランを打ってバットをポーンと投げて塁に駆け出して行く姿はかっこいいし、力いっぱいバットを振って三振する姿にもなぜか笑いがこみ上げてくる。

 ゲッツーになってしまっても、「新井さんだったらしゃーないな!」と笑って許してしまうのです。


 ちなみに、阪神タイガースに弟(新井良太)がいます。

 顔も行動もバッティングフォームもお兄ちゃんにそっくり。

 兄弟仲は非常に良く、オフのテレビ番組などによく一緒に出ています。

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