第13話 Silent Night , Holy live.

『VR LIVE System シーケンス開始』

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Internet-Musume VR Live start.

【Xmas Special stage-Streaming Starry Night】

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【Starting in… 3, 2, 1】


──Plug on!


眩い光が視界を埋め尽くし、仮想空間のライブステージが起動する。


レーザーの光線が空間を交差し、金色の粒子が降り注ぐ中、11人のシルエットが浮かび上がった。まるで天上から舞い降りる流星のように、それぞれの姿が次第に照らされていく。


「行くよ!」


霧宮すばるの声が響いた瞬間、音が一気に膨れ上がった。


観客アバターたちが歓声のエフェクトと共に揺れる。仮想のステージとは思えないほどの熱量。光が飛び交い、リアル以上の鮮やかさでライブが幕を開けた。


『待ってた!』『Plug on!!』『なにこれ?すげえ…』『尊すぎてもぅ無理…』


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『pingから始めよう!』♪


イントロが鳴り響くと、ステージが鮮やかに照らされる。


すばるの澄んだ歌声が流れると、視界いっぱいのペンライトが波打った。メンバーたちは軽やかに動き出し、リズムに乗せてシンクロしていく。


『うぉぉぉぉ!最初から飛ばしてる!!』『すばるんのソロ、最高すぎる』『完成度高っ!』


彼女たちの動きは、もはや「合わせる」ものではなく「流れ」の中にあった。足音が揃い、腕の振りがひとつの流れを作り出す。呼吸のタイミングすら、見えない糸で結ばれているかのようだった。


──1年前、11人になったばかりの頃が嘘のようだ。


「……今日もみんな楽しんでくれるかなー?」


せいあが会場を見回し、観客に問う。


『もち!ろーん!!』『分析してーぇえ!』『聖楡木様、ありがたや』


「私の想いは届いてる?」♪

 

なちが笑顔で顔を上げると、目が合ったちいかも微笑む。

二人で、うん。と頷き合い、肩を並べて観客席に手を伸ばす。


「もう一回!せーのっ⭐︎」♪


「ずっとずっと繋がっていくから⭐︎」♪


『なちの笑顔で元気出る』『ちぃちぃテンション高くて可愛い』『一年の成果を感じる…!』


「ping!☆ ping!☆ これからも!

 Endless Communication! やめられないっ!

 Next Page へ いっくよー☆

 君とつながる、その日まで!」♪


1曲目が終わると、観客のアバターたちが歓声を上げ、ホログラムに無数の「拍手」アイコンが弾ける。


『最高!!』『手が止まらん!』『ライブ感ヤバすぎる!!』


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「みんな、最高の夜にしようね!」


ちいかの声に応え、客席が再び揺れた。


『Click here!』♪


エネルギッシュなビートが鳴り響く。


凛とあまねがセンターに立ち、力強くステージを駆ける。


「何となく Click しただけなのに

 心が揺れる音がした」♪

 

──観客も、それに応じるように、反応する。


『りんねええええ!!!』『あまね姫かっこいい!!』


この空間には、もう違和感なんて存在しない。


(これが、私たちのライブなんだ)


まりあが客席を見つめながら、静かに微笑んだ。


「会いたい もっと知りたい

 でも どこへ行けばいい?」♪


『まりあのこの表情が好き…』『包み込まれるような安心感』『納得のセンター…』


もこは、その表情をじっと見つめる。


「One Click で運命が変わる

 知らなかった自分に出会えたよ

 君の声が響くたびに

 心のどこか つながってく」♪


まりあは何も考えずに「その場にいる」。計算や理論ではなく、ただ観客と向き合っていた。


『もこたん、目線が真剣…』『何を考えてるんだろう?』『もこはライブ中に何かを掴むんだよな…』

 

「何気なく開いたページの隅

 ただの サムネイル 目に止まった

 何となく Click しただけなのに

 君が今も、ここにいる」♪


もこは、まりあの仕草の一つ一つを観察する。


それはまるで、呼吸をするように自然で、意識しなくても周囲と溶け込んでいるように見えた。


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『F5 syndrome』♪


もこは、立ち上る光の中で静かに目を閉じる。


“同期”という概念を、1年前の彼女は理解しきれていなかった。


「画面の向こう 揺れる未来

 Click 一つで すべてが変わる

 Loading 進まない時

 でもまだ終わりじゃない」♪


『うぉぉぉ!きたきた!』『シンクロ率120%』『F5連打案件!!』


(全員の動きを揃えるのは、データとして最適なものを作ること)


──その認識が変わったのは、何度もステージを重ねたからだった。


彼女は今、意識せずとも“揃っている”。


「履歴の隙間に刻まれた」♪


『もこたん、今日キレッキレだな!』『前よりも柔らかくなってる…?』『進化を感じる』


「Error? Bug? そんなの関係ない」♪


なちとちいかが息を合わせて飛び跳ねる。


『なちの笑顔まぶしすぎる!』『ちぃ様が元気すぎて尊い…』『このコンビ、好きすぎる』


「未来は Reload できるんだ」♪


まりあが振り向くと、観客のアバターたちが一斉に動く。


『目が合った…』『マジか!?爆レスおめ!』『奇跡のライブ…!』


「新しいストーリーを描け」♪


すばるがマイクを掲げると、まるで本物の歓声のように、反応の波が押し寄せた。


『ライブの未来すぎる』『お、新規さん?楽しもうぜ!』『これ、現実のライブ超えてるかも…?』


(……みんな、すごい)


もこは、心の中で呟いた。


1年前、彼女が拘ったのは“正確な動作こそ全て”だった。


──今は違う。


「きっとまた、会えるから」♪


今、もこは“みんなと一緒に歌っている”。


『もこたん、F5からだったよな…』『一体感凄いな…』『同期ばっちりだな、よき…』


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ステージの照明が温かなゴールドに変わる。

熱気を帯びた会場に、ふっと柔らかな空気が広がる。

メンバー何中央に集まる。


「改めて!インターネット娘でーす!」

「よろしくお願いしまーす!」


「いやー、なんだか、今年もあっという間だったね」


なちがマイクを持ち、天井を仰ぎ、しみじみと呟いた。


『ほんとに早すぎる!』『もう一年かぁ…』『毎年これ言ってる気がするw』


「まだ1週間あるけどね」


ちいかが笑いながら突っ込む。


「うん……でも、いろいろあったよね」

すばるがゆったりと頷く。「ライブも、配信も、新曲も……全部、一緒に作ってきた」


「本当ですわね」

あまねが扇子を静かに広げながら、優雅に微笑む。「こうして皆様と共に過ごす一年が、またひとつの思い出として積み重なっていく……とても素晴らしいことですわ」


『ノブレスオブリージュいただきまくった…』『本当にずっとついていきたい…』『貴族のクリスマス…!』


「うむ、なかなか充実した一年だったな」

イリスが腕を組み、満足げに頷く。「我が軍勢も着実に力をつけ、次なる覇業への道を切り開いている」


『覇業www』『イリス様、世界征服の進捗は!?』『来年はついに…!?』


「……」


かなでは静かに、メンバーたちの話を聞いていた。


「かなでちゃんは?」

なちが軽く問いかける。


「……。」


少しの間をおいて、かなでは微かに頷いた。


『いい…』『分かる…』『尊い…』

『無音勢の解釈力よw』


「ふふっ」

まりあが穏やかに微笑む。「かなでも楽しかったよね」


「……うん」


かなでは小さく呟いた。その一言が、温かな会場の空気に溶け込む。


『ありがたい……』『この一言が何より響く』『最高のプレゼントだな…』


ちいかがみあの方を振り向く。

「みあちゃんは、今年一番印象に残ったことって何だった?」


みあは一瞬考えるように視線を落とし、ふっと微笑んだ。


「んー……たくさんあるけど……やっぱり、最初のVRライブ、かな」


『あー! あれは熱かった!』『あの時、歴史が動いた』『VRキットを買って無かった後悔……』『どんまいwww』


みあは遠くを見るように、柔らかく言葉を続ける。

「ステージに立って、目の前にファンのみんなの姿が見えて……あのとき、やっと“アイドル”になれた気がしたんだ」


「そうだよね!」

ちいかが大きく頷く。「最初は手探りだったし、どうなるか分からなかったけど……でも、みんながいたから、"ライブ"になったよね」


「……で、ちいちゃんは?」

みあが問い返す。


ちいかは一瞬だけ目を丸くし、それから照れくさそうに笑った。「んー、全部濃かったからなあ。でも……やっぱり、ファンのみんなと直接話せたスクショ会かな!」


『あれは神イベだった…!』『ちいかのスクショ、今もロック画面にしてる!』『スクショ会のために生きてた』


「やっぱり、言葉にするのって大事だなって思ったんだよね」

ちいかは画面を見つめながら続ける。「ステージでパフォーマンスするのも最高だけど、直接『ありがとう』って伝えられるのって、すごく特別なことだなって」


みあは、その言葉に静かに頷いた。「うん……たしかに」


『ちぃちぃてぇてぇ……』『直接名前呼ばれるとやばいよね』『運営さん!次はいつですか!?』


「じゃあさ……来年は、もっと楽しいこと、みんなでやろうね!」

ちいかの言葉に、コメント欄が一気に盛り上がる。


『もちろん!』『ずっとついていく!』『来年も最高の年にしよう!』


「さてさて、それじゃあ……そろそろいっちゃおうか?」

ちいかが意味深な笑みを浮かべる。


「……あ、そうですね」

せいあが小さく笑いながら、次の展開を促した。


「でもさ、こうして一年振り返ると、もこちゃんがすごく成長した一年だったなぁって思うよね!」

なちがふと、もこの方を向く。


「えっ、私……ですか?」


「そうそう! だってさ、最初はカチカチだったもこちゃんが、いまや!」


「……」


もこは、一瞬考え込む。


「いまや……?」


「ねぇ!」

凛が大きく頷く。

「最初の頃、MCほぼ無言だったじゃん」


『たしかにw』『マイクoffられてると思ってたw』『成長したなぁ…』


「今も……そこまで喋っていない気がしますが」


もこが困惑したように呟くと、まりあがクスリと微笑む。


「でも、今はそれが“もこらしい”って感じ」


『分かる…!』『外から見てる担当w』『見守るもこを見守る過保護たちw』


もこは少し考えたあと、そっと口を開いた。


「確かに……最初は、何を話せばいいのかわかりませんでした。でも、最近は……自然に、言葉が出るようになった気がします」


『成長したなぁ…』『アイドルとしての自覚が…!』『これは…もこたそアップデート…?』


「……でも、まだまだ課題はあります」


もこは真剣な表情で言葉を続ける。


『真面目かww』『真面目だw』『真面目だな』


「……というわけで!!」


なちが勢いよく前に出る。


「みなさん、お待ちかね!!」


『!?!?!?』『待ってた!!』『キタキター!』


「もこちゃんのツンデレチャレンジ~~!!」


『うおおおおおお!!!』『よっしゃあああ!!!』『神コーナー!!』


「え、待って……なんで?」


もこが本気で困惑する。


「だってさ、さっきも言ってたじゃん!」

なちがニコニコしながら続ける。「まだ課題がある。って!!」


「……?」


「ほら、みんなも期待してるよ?」


『期待しかない!!』『もこたそ!おなしゃす!!!』『出力120%で頼む』


「……なぜ、こうなるのか……」


もこは少し考え込んだあと、意を決したようにマイクを握る。


「……み、皆さんなんて……」


観客が一瞬、息を呑む。


『……!!』『オッ!』『おっ!?』


「……イヴなのに独りで寂しくしてればいいんですっ!」


──

── ──


メンバー、観客アバター、コメント欄の全てが凍りついたように静まり返る。


『も、もこ……』

 

『あかんw』


『もこ、それはあかんww』

『心にくるヤツは勘弁なwww』

 


「……っ」


もこは、耳元が熱くなっているのを感じながら、視線を逸らした。


「ふむ……なかなか良い仕上がりではないか」

イリスが満足げに頷く。


「……うわぁ」

なちが軽く肩をすくめる。「えっと、じゃあそろそろ次に……」


『なちゅれ!流すな!イジれ!』『そのままいくな!』『逆にツラいw』


──静かに、ステージが暗転する。


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「では」

あまねが、ゆったりと扇子を閉じる。「皆様と、素敵な聖夜を……」


彼女の言葉に、ファンのリアクションが湧き上がる。


『最高の時間をありがとう…!』『姫の御心のままに…』


「……次の曲で、今宵の宴も終わりです」


 

すばるがマイクを握り、静かに一歩前へ。


「特別な夜に、特別な歌を」


──


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Streaming Starry Night

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イントロが静かに流れ出す。


会場の照明が一度落ち、闇が広がる。


次の瞬間、無数の星が浮かび上がる。

空間いっぱいに広がる輝きは、どこまでも続くサイバーの星空。

まるで、銀河の中に迷い込んだような幻想的な空間が広がる。


ふわりと舞う光の粒が、ゆっくりと形を作る。

そこには、まりあが立っていた。


柔らかい微笑みを浮かべ、静かに歌い出す。


「画面の向こう きらめくステージ

 君の声が降る ホーリーナイト」♪


──光が彼女の周囲を包み込み、まるで降り注ぐ雪のように瞬いている。

その光の粒は、会場全体へと広がり、観客のアバターたちを包み込んでいく。


『すごい…!』『まるで本当に降ってるみたい!』『これはヤバい…』


星空のような演出の中、せいあがまりあの隣に歩み寄る。


「雪みたいなコメントの波に

 心がそっと 包まれる」♪


みあが両手を広げると、のコメントの白い文字が雪の結晶のように舞い散り、視界の中でキラキラと光る。


もこがそっと手を伸ばし、その光の粒を指先でなぞる。


「プレゼントなんて いらないよ

 君がここにいる それだけで」♪


光の粒が、ゆっくりと流れ、メンバーたちのもとへと集まる。

ファンの想いが、彼女たちのもとへと届いているように。


「配信の光が灯るたび 孤独も溶けてく」♪


せいあがそっと呟くように歌う。


「この星の下でつながってる」♪


なちがステージの端へと歩き出し、ファンのアバターたちの方へ手を伸ばす。

視線が合う。彼女たちの表情が、遠くても、確かに見える。


「モニターの向こうの君に」♪


観客のアバターが一斉にペンライトを掲げた。

その光が、ライブ空間全体を照らし出す。


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「Streaming Starry Night

 今すぐ会いに行くよ 一秒の奇跡で

 距離なんてなくなるから」♪


光の中、メンバーたちが次々と現れる。

衣装が変わり、純白のクリスマスドレスへと変化する演出。

まるで、星降る夜の天使たちのように輝いていた。


「部屋の灯りは消したままで

 モニターの星を見上げたら」♪


『ヤバい、神演出…!』『最高すぎる…!』『尊い…』


「遠くの街で同じように

 君も笑っているのかな?」♪


星が集まり空へと昇り満点の星空になる。

幻想的な演出。会場を包む空間が観客の意識も空へと舞い上がらせる。


──

 

「君が好きだよ」♪

 

まりあが、ゆっくりと歩を進める。

観客一人ひとりの顔を見るように、視線を送る。


「Streaming Starry Night

 サーバーに積もる想い リアルじゃなくてもいい

 君がいれば それだけでいい」♪


音楽が静かに響く。

歌声が会場を包む。


ステージの中央に集まったメンバーたちは、光の帯を描くように踊りながら、手を繋ぐ。

その動きが、まるで一つの星座を形作るように広がっていく。


「君が、ここにいるから」♪


──その言葉が、静かに観客の心へと届いていく。


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会場は再び静寂に包まれた。


ただ、無数の光の粒が、まだ宙を漂っていた。


ステージ中央に立つメンバーたちは、ゆっくりとお互いの顔を見合わせる。


そして、自然と微笑みが広がった。


『ありがとう!!!』『最高だった!!』


歓声が、雪のように降り注ぐ。


照明が落ち、光の粒がひとつ、またひとつと消えていく。


最後の一粒が消える——


 

「メリークリスマス!」

 


────────────────────

【VR Live Systemを終了します】


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