第32話 指導者
「シノザキ流、1年、ユーグ・アーヴェントです。生徒会では自分の能力を発揮し、学院の発展に携わっていきたいと考えています、よろしくお願いします」
「ウサミ流、1年、ニーナ・クロスです。生徒会では先輩方の力になれるよう、精一杯頑張っていきたいと思っています。よろしくお願いします」
早くも二人の
新しい1年を値踏みするように見る人、会長の部が終わり早くも飽き始めた人、隣の人との話に夢中な人、そして、いい意味でも悪い意味でも、この前の
この人たちを引っ張ってゆく。いずれそうなる場所を目標にした以上、その立場になる人間の近くへ行くこと、間違いじゃないはずだ。
演説台に上がる。強くもなく、弱くもなく、すっと胸を張って、張り上げすぎない声で。
「シノザキ流、1年、アルス・カーフェンです。生徒会に入り、学院の頂点に立つ人たちからたくさんのことを学んで行きたいと思います。よろしくお願いします」
前の2人と同じような少し大きいような拍手を受けながら席へ戻る。人となりを伝えられただろうか。そう考えていると、他の候補者の演説が続いてゆく。
「同じく、シノザキ流1年、ユリア・ファルケと申します。私の実力がどこまで通用するかわかりませんが、入った際には全力で頑張りますわ。どうぞ、よろしくお願いします」
「テオドル・ロッツェンって言います。カグラ流1年です。とにかく全力で頑張ります、よろしくお願いします!」
「タケイ流1年、カティ・マテスです。人前に立つのは苦手です。苦手ですが、人の支えになることが人より得意、だと思っています。生徒会に入ったら精一杯頑張ります。頑張ります。」
これから、様々な形でこの人たちと戦ったり協力していくのだろう、その中でどんな強みを出してゆけばだろう、と考えていると、いきなりそれは始まった。
「セト流1年、レネ・シファーです。よろしくお願いします。最後の一人でありながら、後出しな感じになりますが、今ここで一つ提案があります。よろしいでしょうか」
「では、レネ君で最後ですので、軽い話し合いをこの場でしてもらいましょう」
「1年生の候補者同士で誰が実力者なのか、ここで決めておきませんか」
会場が少しづつざわつき始める。
「編入試験では、模擬戦を3度するだけで、今ここにいる候補者同士はほとんど戦っていないわけです。ここに並ぶ7人の中で誰がどれくらい強いのか、はっきりさせておくべきでしょう」
それは確かにそうだ。この選挙は、学年の顔としてだれを選ぶか、学院にとって何が正しいか、単純にこの人が好き、この人が嫌い、そんな様々な基準で、選ばれる。
でも、人は迷う。そんな時に人は揺るがないはっきりとしたものに目を向ける。それが自分の中にある人もあれば、他人の中にそれを求める人もいる。その揺らぎを捉えるために彼は今仕掛けている。
「もちろんこの戦いに参加しなくてもいいです。この戦いの結果を受けてだれに投票するかを考えてほしいだけです」
面白いものが始まったと騒ぎ始める人、戸惑いの色を浮かべる人、早く終わってほしい人。その色が少しずつ広がってゆく。
「ただ、ここからは私の提案ではなく、わがままですが、アルス君には必ず参加していただきたい」
急にその注意は自分に向けられる。
「セト流の本家でありながら、シノザキ流に流れ、それでいながら君の特性がよく目を引くおかげで、物珍しさにいまだ生徒間の話題になっている、そんな君が許せない。是非ともこの機会にどちらが優れているかはっきりさせておきたい」
「そうか。じゃあ、やろう。自分の実力がどれだけあるのか、興味があるし。問題ありませんか、ルドルフ先生」
「うム、問題ない。だが、先ほどレネ君が言った通り、この模擬戦の結果がすべてではない。その部分を誤解しないように。これは選挙であると、しっかり理解したうえで模擬戦を見るように。では、模擬戦を認めるが形式をこちらから指定させてもらう。構わないね?」
「はい、構いません」
「ではまず、参加するものはレネ君、アルス君を含め挙手」
挙手したのは、カティ君を除く6人。
「結構。下げてもらって構わない。カティ君は不参加でいいかね?」
「はい、今の自分にこの方たちに戦闘で勝つのは難しいと思います」
「そうか。では6人で模擬戦をやってもらおう。選挙期間が短いことも考えれば、次の水曜にやるとして、内容はこうしよう。」
ルドルフさんが提案した形式はこうだ。
模擬戦は1人2戦。
1戦目は1対3。3人側は刻印を使用しない2年生3人。
2戦目は候補者6人が一斉に戦闘する文字通りの総当たり戦。
そして、特殊な取り決めが言い渡された。1対3では自分の強みを見せつける戦い方をすること、総当たり戦前には目標を宣言し、その目標を達成する戦い方をすることというものだ。
「1戦目、2戦目ともに勝つための戦いではなく、目的を達成するための戦いをしてもらう。当然だろう。勝利のみを追求するような人間が果たして生徒会という組織に必要だろうか。私が今後生徒会に影響を及ぼすことはないが、教師として、一つの組織の戦闘に立つ者が目的を見失うような人間であってほしくはない。そのために、このような制限を加えさせてもらう。では、6人の参加者の健闘を祈る」
そのルドルフさんの言葉を最後に1年生の部は、
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