第33話 刻印術 ~六流派概要~

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 ――――――――同日

 

「レオン君、ほとんど寝てたじゃないですか」


「うぇ?へへっ、まあな。んで、終わった後も騒がしかったけどなんか、あったのか?」


「聞いても、人のいざこざ興味ないでしょ?」


「ん!興味ねえ!あ゙ー!」


マジで寝てたな。上級生がつらーっと並び始めたところから記憶がない。途中パンパン鳴ってような気もしたけど。


「それじゃあ、簡単に説明しますけど、演説会で会長の部、一年生の部、一般の部とあったんです。会長の部は見る限りヴィルヘルム先輩が頭一つ抜けていたという感じでした。このまま当選になる流れでしょうね」


「へえ、やっぱりあの人なのか」


「えっ?知ってるんですか?先輩のこと」


「ん?知らないけど」


「じゃあなんで、『やっぱり』って」


「んー、なんでだるうな、勘?とは違うな」


ティオと話したい、と思ったのもこの感覚に乗っかったからだが、なんなんだろうな。


「で?会長があの人になりそう以外には?」


「一般の部で2年と3年が衝突しょうとつしてたのは興味なさそうなんで省きますけど、1年の部、面白いことになりましたよ、候補者同士で模擬戦やることになったんです」


「おお、面白そうじゃん」


「はい、明後日の水曜日やるみたいですよ」


「おー、楽しみだわ。んで、次また授業だろ、なんだっけ?」


「次は刻印術の授業ですよ内容は確か――

 


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「本日は、最近話題であろう刻印の流派について話そう。開刻かいこくの儀で君たちはその適性を魔法陣によって判断されて、6つの流派のいずれかに所属しているわけだが、今回は自らが所属していない流派の理解を深めるためにも、流派ごとの特徴と主力とされる刻印術について説明していこう。

 前提ぜんていとして、シントラの刻印術を使う戦士があらゆる力を得るわけではない。元来刻印というのは一人一人に合わせて作られるものだった。それゆえに、刻印使いというのは唯一無二ゆいいつむにで強力な力を持っていたのだ。戦士一人で多くの敵を相手取り、時に強敵きょうてきを打ち破り、時に戦場の流れを一刀両断する絶大な力を持っていたのだが、この唯一無二が欠点としてもはたらくことになる。一人しか使えないということは、その場では絶大な力を持っていてもその場を離れてしまえばその脅威きょういはなくなる。

 シントラの攻略に敵が戦場の分断や複雑化、局面きょくめんを複数作るなどの対策をこうじてきたなら、極端きょくたんに戦場の優位を失いやすい。他国の戦力は、一人一人の兵力は我が国の戦士に及ばないことのほうが多いが、兵器や戦術、戦場に影響を与えるものに関しては、シントラを上回るものが存在するのが事実だ。それでもこの国が滅びず今に至るのは、やはり英雄エドワードを筆頭ひっとうに、我が国の戦士たちが徹底てっていして国を防衛することに全力を尽くしたからだ。

 それでも、その英雄を失ってしまっては、一気に攻め込まれてしまう。そこで開発されたのが今の刻印だ。

 具象化することから次元を一つ落とし、物事ものごとことわりへ干渉することに重きを置くことで、多くの人間が使用できるようになったわけだ。その用途ようとが少しずつ枝分かれしてゆき、現在の6流派に至るわけだが、さて、6流派には何があるかその特徴と合わせてこたえられるものは?」


 いきなりの質問に顔を見合わせる生徒たちの中でいの一番にスッと手をあげたのは、ニーナだった。


 「流派はそれぞれカグラ流、セト流、シノザキ流、タケイ流、ウサミ流、ナンバ流の6つに分かれています。カグラ流は強化や増幅ぞうふくを得意とし、具象化ぐしょうかにおいて火焔かえんが生まれるため、『火の流派』と呼ばれています」


 ルドルフ先生はニーナの説明を受けながら、カグラ流の刻印術の概要を模した図を黒板へ貼り付けてゆく。


「うム、その通りだ。代表的な刻印術として、第一出力の【強化】、第二出力の【倍化】、第三出力の【炎熱えんねつ】がある。先日のテオドル君が授業で見せてくれた通り、力強い特徴を持つ流派だ。戦場においても多人数に対して高い制圧力を持つために開けた場所での白兵戦はくへいせんを破壊するのに向いた能力に長けている。よろしい、続いてセト流について」


「はい。セト流は、吸収や鎮静ちんせいを得意とし、具象化ぐしょうかにおいて水流や氷柱が生まれるため、『水の流派』と呼ばれています」


「その通りだ。第一出力の【吸収】、第二出力の【鎮静ちんせい】、第三出力の【冷却れいきゃく】がある。カグラ流とは正反対といえる性質で、相手の攻撃性こうげきせい制御せいぎょする能力に長けているため、下位出力の刻印術では1対1の戦闘、特に狭い場所での近接戦闘きんせつせんとうを得意としている。では、シノザキ流を」


「シノザキ流は力の流れの制御せいぎょを得意とし、具象化ぐしょうかでは疾風しっぷうが生まれるため、『風の流派』と言われています」


「うム。シノザキ流には第一出力は【変化】、第二出力は【流転るてん】で、第三出力は【廻風かいふう】がある。前に挙げた二つの流派と違いわかりやすい破壊力はないが、柔軟性じゅうなんせいの高さを生かし、様々な状況を作り出すことができる。よろしい、では次」


 パウルが試験の時に俺に使ったのはこのシノザキ流第一出力の刻印術か。確か、ニーナも開刻かいこくの儀でパウルの変化がどーだの言ってたな。


「タケイ流は防御ぼうぎょと地形の変化を得意としています。具象化ぐしょうかでは地形の変化や岩壁がんぺきを出現させたりするため、『山の流派』を呼ばれています」


「タケイ流は、実に堅牢けんろうな流派といえるだろう。第一出力は【硬化こうか】、第二出力は【破壁はへき】、第三出力は【隆起りゅうき】が代表的だ。防御ぼうぎょにおいてこの流派の右に出る者はない。単なるボロ小屋ですら要塞ようさいに変え得る力を持つため、要所ようしょ防御ぼうぎょを固めることに専心せんしんする者すらいる。では、ウサミ流の説明を」


「ウサミ流は加速を得意とする流派です。直線的な能力ですが、具象化では雷を出現させ、破壊力という観点では、一帯を制圧する破壊力を持つカグラ流と異なり、一点突破することに極端きょくたんに優れた『雷の流派』と呼ばれる流派です」


「うム。流石クロス家の令嬢れいじょうといったところだろうか。他の流派より力の入った説明ありがとう。そのまま刻印術の説明もよろしく頼む」


「はい!第一出力は自らの移動・運動速度を加速させる文字通り【加速】。第二出力は、物体の運動速度を加速させる【閃撃せんげき】、第三出力は、武器や体に雷をまとわせる【纏雷てんらい】が代表的な刻印術です」


「よろしい。点における破壊力がいちじるしく高いのがウサミ流の特徴とくちょうではあるが、直線的という一言でまとめられる流派ではない。もっと理解を深めて、新たなウサミ流の可能性を生み出してほしい。では最後にナンバ流の説明をお願いしよう」


「ナンバ流は他の流派と異なり、支援に長けた流派です。具象化においても植物の成長を促し、達人級ともなれば森林すらも生み出すことから、『森の流派』と呼ばれていることは知ってはいるのですが。適合者が少ないウサミ流よりも少なく、知られる情報が少ない流派です」


「少ない中でも良く理解できている。それでは、刻印術について関して。第一出力に【治癒ちゆ】、第二出力に【回復】。第三出力は【生成】が少ない中でも知られている刻印術だ」


 ルドルフ先生は6流派の刻印術の図が黒板に出そろったところで、懐中時計かいちゅうどけいをカチリと開いて時間を確認する。


「さて、これで6流派全ての概要を説明した。もちろん、概要というだけで各流派の刻印術は使い手の工夫一つで様々な変化を見せる。これから色んな角度から解釈を深めて、君だけの刻印術の世界を広げていってほしい。では以上で今回の授業を終わろう。また、来週の刻印術の授業までに、1年生の候補者による模擬戦があるだろう。候補者の中の誰でもいい。どのような刻印術を使っていたか、君たちの解釈かいしゃくで構わない、軽くまとめて提出すること」


 と、言ったところで授業の終わりを知らせる鐘の音が鳴り響いた。

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