第27話 候補者

――――

 授業を終えて、向かったのは特別会議室。目的は、もちろん生徒会選挙への立候補だ。


 特別会議室というだけあり、設備が多様らしい。使用用途に合わせて、設備が変わるらしく、この生徒会選挙期間中は、選挙管理委員会が期間中の活動をしやすいように構成されている。先ほど司会進行していた先輩が奥のほうで談笑しているのが見える。


「おや、きみはたしか――アルス君じゃないかい?!カーフェン家の次男でありながらセト流の使い手の中で最も早く第三出力を扱えるようになり、その上先日の開刻かいこくの儀で複数の流派に適性があり、選んだのは、まさかのシノザキ流だという、まさに話題に事欠かない男といった君が、この度ここを訪れたということは、やはり、立候補するのかい?!」


「はい、1年生枠で立候補をします。」


「フムフム、君ほどの実力者であればもはや一般枠でも遜色ないと思うけど、では、こちらに記名してくれ」


 出された名簿に自分の名前を書く。アルス・カーフェン、と。上を見ると他の立候補者の名前が書いてある。今のところ立候補しているのは、自分を含めて6名か。


 会長枠には、姉さん、ヴィルヘルム先輩の他に2人の立候補者の名前が書かれている。一般枠は……すでに10名もいるな。3枠を争うというのになんという人気だろうか。


「ふふ、多いと思うかい?でもね、それほどに生徒会に携わるということは、名誉なんだよ。生徒よりも教師陣よりも会長の立場に近く、学院に影響のある行動をとることができる。この立場は学院の中で大きく作用する。そしてこれは君の成長に大きく作用するだろう。長い物には巻かれろ、とは良くいうものだが、その長いものに君が成ることができる道もあるという話だ。さて、時にアルス君。立候補者には毎度毎度聞いているんだけれども、君は何を望んで生徒会へ入りたいんだい?」


 何を望んで。そんなもの、何だっていい。ルドルフさん、実の父親に自分の力を証明できさえすれば。


「自分の証明です」


「そうか。ではその未来をつかみ取れることを祈るよ」


「ありがとうございます、オットーさん」


 

「今年は色々起こりそうだ。本当に楽しみだよ」


「え?なんですか?」


「いや、何でもないさ、頑張ってくれ、応援しているよ」


「は、はぁ……」

 


 ――――金曜日、放課後

 今週の授業が終わり、いつもであれば帰路につくだろう学生の足は、ある場所へと向かってゆく。午後に授業のない生徒も今日ばかりは午後まで残りこうしてその流れの中にいる。僕も同様にその流れにのってある場所へ向かう。


 人だかりは空の掲示板を囲むようにして集まり、その群れを押しのけて用務員の男が金槌をもって掲示板へと向かう。


「あーい、危ないからね、少しばかり離れてくんねーかね、はい、そう、ちょっと離れて。そこで」


 開けた人混みに囲まれた掲示板にコン、コン、カーン!と小気味よく打ち込まれた釘で張り出された掲示物には、『生徒会選挙立候補者一覧』とあった。



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 生徒会選挙立候補者一覧 (順不同)


 生徒会会長の部:4名

 3年 ヘルガ・ローズ (セト流)

 3年 イエンス・フレーリッヒ (タケイ流)

 3年 ファーリ・アルヴァネ (カグラ流)

 3年 ヴィルヘルム・ショット (ウサミ流)


 一般会員の部:13名

 3年 タイロン・オーバードルフ (カグラ流)

 3年 ニルス・ボック (シノザキ流)

 3年 マーレン・ラウザー (カグラ流)

 3年 アネッテ・ヘイム (シノザキ流)

 3年 ニコ・メーレンベルク (カグラ流)

 3年 ロタール・ケラー (セト流)

 3年 ワルター・ラウザー (カグラ流)

 3年 ヨシフ・サムデレリ (ナンバ流)

 3年 スヴェン・オッゲン (セト流)

 3年 ディートマー・コズーフ (タケイ流)

 2年 フリッツ・ネリウス (シノザキ流)

 2年 アウラ・ブーツ (タケイ流)

 2年 オドラニエル・ルディンク (カグラ流)

 

 一年生の部:7名

 1年 ユーグ・アーヴェント (シノザキ流)

 1年 ニーナ・クロス (ウサミ流)

 1年 アルス・カーフェン (シノザキ流)

 1年 ユリア・ファルケ (シノザキ流)

 1年 テオドル・ロッツェン (カグラ流)

 1年 カティ・マテス (タケイ流)

 1年 レネ・シファー (セト流)


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 掲示板を囲む人混みからは様々な声が聞こえる。



…………今年は1年多いな…………

…………ヴィル様、ついに立候補されるのですね…………

…………マーレン!ワルター!応援するからな!2年のちびどもに負けんなよ!…………

…………ヨシフ?そんな奴いたか?…………

…………よく見ろ、ナンバ流って書かれてるだろうが…………

…………お、アルス・カーフェンでてくるのか…………

 


 その喧騒の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「おい、パウル、見ろよ、生徒会選挙ってこんなに参加するんだな。一般の部に13人もいるぜ」


「それほどに生徒会に一員に選ばれるということが素晴らしいことなのだろう。シノザキ流の諸先輩の方々も出られている。ぜひ当選してほしいものだ」


その声の主に向かって歩を進める。どうしても気になったから。

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