第28話 決意

「レオン、レオン・ノイアー」


「んあ?あ!アルスじゃねーの。この度選挙に出馬の、金ぴかアルス君」


「アルス・カーフェン……!」


「君は……?」


 見覚えはあるが、どうにも思い出せない。ペーターだったか、ノルマンだったか。


「名乗るのは、これで何度目だろうか。今度から名札を付ければいいかな?それか君には写し絵付きの生徒名簿を持ち歩くことをお勧めするよ」


「人の名前を覚えるのが苦手でね。悪気があるわけじゃないんだ。それだけは理解してほしい」


「ああ、わかっているともさ。パウル・ウィルデンだ。いつか覚えてくれ。……そういえば、レオンの名前はすぐにおぼえているじゃないか」


「あ、ああ。そういえばそうだな。なぜだろうか、僕にもわからないな」


「んで、何か用があってきたんだろ、どしたんだってば」


「ああ、なぜ編入生でありながら君は立候補しないんだ。戦士として上を目指す者として……」


「返すようだけどよ、アルスはなんで生徒会に入りてぇんだよ?」


 どうにもレオンは面倒くさそうに返してきている。


「自らの力を証明するためだ」


「それなら武闘会でてっぺんとりゃあいい話じゃねーの」


「僕が目指すものは個人として強くあるのは当たり前なんだ」


「ほーん、でもよ、俺はまだみんなができることすらできねぇわけよ。そんな奴が編入生で、しかも生徒会に入ってみろよ、暴動起きるぜ?それによ、編入生で他にも立候補してねえ奴もいるだろ?パウルだってそうだぜ」


「俺はそもそも編入試験でレオンに負けているからな。立候補は来年まで見送りだな」


「ま、何にせよ、俺が目指す至天の姿に、生徒会みたいな組織の力が合致しないんだよな。俺自身が人の上に立つって柄じゃねえし」


「しかし君は……!」


「んだよアルス、遠目から見てたお前、なんかいけ好かねー奴だなって思ってたけど、なかなか熱い奴だったんだな」


「なっ……!?」


「とにかくだ。俺が思ってることを言うぜ。俺としてはお前みたいに持ってる奴は先に進んでほしいわけよ。嬉しいじゃんよ、同世代ですげえ奴がいるって。ワクワクするもんな。だから、先行ってくれよ、俺だって負けねえし」


「ふっ。そういうところがお前の面白いところだ、レオン。わかったろう、アルス、今のコイツの興味が生徒会に向いてない以上、多分何言っても無駄だ」


「そういやパウル、エリザさんが今日の夕飯ハンバーグだっていうからよ、早く帰ろうぜ!あ、アルス、選挙がんばれよ!じゃな!」


 人混みをかき分けながらレオンは去っていった。



 ――――同日 暁星寮ぎょうせいりょう

 夕食を終え、自室で寝る準備を整えていると、ココンコンとドアをたたく音が聞こえる。暁星寮ぎょうせいりょうでは、執事や召使いが入室する前はコンコンコンと3度叩くが、各々の専属の執事の場合は、ココンコンと少し変えて叩くことで区別をつけている。


「アルス様」


「入れ」


 自室に入ってきたデトレフの手には封書が握られていた。

「選挙管理委員会からの封書です」


 学院の紋章の封を切って開けた中身は、来週の立会演説会についての案内が入っていた。



====

立会演説会について


アルス・カーフェン殿


この度は生徒会選挙・一年生の部への立候補おめでとうございます。いきなりですが、来週月曜日にて立会演説会を予定しております。この立会演説会は立候補者が何を志して生徒会の一員になりたいのかを表明して、他の立候補者より優れているかを見せる場として設けております。

つきましては、当日についての説明についてですが、以下の通りとなります。


日程

投票日当日の説明

生徒会会長の部、1年生の部、一般会員の部の順



演説

各部において演説の順は先に貼り出された立候補者一覧に掲載された順に行う

各部において立候補者全員の演説が終了した後、立候補者は、他の立候補者に対して質問をすることができる

 

注意事項

演説内容に必ず、『生徒会においてどのような活動をしたいか』を含めること

他の演説者の演説中に割り込んで演説・質問等をしないこと

他の演説者に対して、武力・暴力をもって妨害しないこと

その他、演説会中に疑義ぎぎが生じた場合、選挙管理委員会によって判断・処理される


当日は、演説という形式をとりますが、武器の持ち込み等、戦士として演説台に立つことを制限はしません。むしろ存分に『自分がいかに戦士として、上に立つ者として有能であるか』を示してください。

 では、演説会当日のお越しをお待ちしております。


 選挙管理委員会

 

====



 いよいよ、熾烈しれつな選挙期間が始まる。自分の実力がどこまで通じるのか。不安はある。だが今は、立ち止まっていられるほど力があるわけじゃない。目指す場所ははるか高く、見える場所でありながら足がかりの見えない場所。その場所に行くためにも、今は上を見続ける。


 ……今日はもう寝よう。

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