第22話 銅鑼獅子

コン、コン、カーン!



「っし、これで全部か」


 金槌かなづちの鳴る方を見ると用務員さんが掲示板に掲示物を貼り付けていたところだった。


「こんちはー」


「お、こんにちは。最近の学生さんは挨拶できて偉いねー」


「用務員さん、これは?」


 興味ありげにセラが聞く。


「生徒会選挙だってね。また1年始まるって感じだねぇ」


「へー生徒会選挙ですか!丁度私たち話してたんですよ、てか、用務員筋肉すご、ムキムキー」


 確かに、ガタイがいい。まくり上げた袖から出る腕が凄くガッシリしている。


「ハッハッハッ!ありがとねぇ。とはいえ戦士として成長していく君らに抜かされるだろうからね、この職場でしか褒められないことだよ、ハッハッハッ!」


 用務員さんはそう言いながら、道具箱に金槌かなづちと釘をしまう。


「さて、立ち話してたらサボってるって思われちゃうからね、みんな勉強頑張るんだよ」


「はーい」


 すると用務員さんはどこかへと行ってしまった。


「あーあ、あの用務員さん、ムキムキのイケメンだったからもうちょっと話したかったなー」


「セラってあんな感じのおじさん好きだよね、確かに、あのおじさん、かっこいい…けど」


 ミリアが若干赤くなっている。え、まじかよ、確かにあの用務員さんイケオジだったけど、ぇえ?!


「えー?いいじゃない!あーいうおじさん私好きー。あのおじさん、あの筋トレとかじゃなくて仕事でつきましたって感じの筋肉がたまらないじゃない……♡」


「ん゙っ!まぁ、セラの男性のタイプはよく分かった。それより見ようじゃないか。生徒会選挙についてだ」



 ============

 

 生徒会選挙:4月21日


 新たな学院を共に創る、君の1票を!


 エドワード学院高等部では、学院をより良く導く新たな生徒会役員を決定する生徒会選挙を下記の通り実施します。全学年の生徒諸君が参加し、公平かつ公正な方法で新たなリーダーが選ばれます。

 君の「志」で学院を導く英雄を応援しよう!


【日程】

 選挙告示:4月11日(火)

 

 立候補受付締切:4月14日(金)

 

 立会演説会:4月17日(月)

 

 投票日:4月21日(金)午前9時〜12時

 任命式:4月21日(金)14時〜15時


【立候補資格及び役員構成】

 会長・副会長・書記・会計:各1名

 庶務:2名


 会長:3年生及び昨年度国内武闘会ベスト8以上

 副会長:会長専の次点者

 庶務1名:1年生のみ

 その他役員:2年生以上及び国内武闘会ベスト32以上


 尚、役職の役職に関しては、副会長及び1年生の庶務を除いて選挙当選者の中から会長指名により任命


 あなたの1票で学院をより良くしよう!


 ============



「生徒会選挙ねぇ……」


「とにかく、告示の日を楽しみにしましょ!私たちが参加できる最初のイベントじゃない」


「それもそうか、ま、とりあえず次の授業行こうぜー」

 



 ――――4月11日選挙告示日 エドワード学院大講堂



 学院の生徒全員が集まるのは、これが初めてだろうか。こうして千を超える生徒が一同に会するのを見ると、改めてこの学院の大きさを感じる。


 生徒たちのざわつきがより大きくなる中、一部の教職員が講堂に入ってくる。

 

 その中の一人、眼鏡をかけた初老の男性が壇上へと上がる。


「……生徒諸君、おはよう。これより、生徒会選挙について説明する。では、後ろに注目」


 すると、教壇の後ろの壁一面が、ガガコン!と音を立て、大きな黒板が現れる。


「我らがエドワード学院は、学院の自治・運営の一部を生徒に委ね、学生の代表としての役割のみならず、学生活動や委員会の監督及び支援など、教職員が生徒を管理するのではなく、生徒によって学院内の社会を形成してゆくことを推奨し、生徒会を設立している」


 その生徒会のシンボルだろう紋章が大きく黒板に張り出されている。盾の前にに羽ペンと剣が交差し、盾の上に大きな3つの星が横ならびに輝いている。


「そして、生徒における実質的な中央権力を担う人間が生徒会を運営することを望み、学院では選挙という形を取っている。つまり、君たちが望む学院の形を作り出す力を持つ人間を君たち自身で選び、またその人間に君たちが成るのだ。これはイリス4大国の中でこのシントラが共和国たる最大の特徴である。他の3カ国と違い、国家元首を国民の意思をもって選ぶこの体制は、シントラの領土が小さいながら未だ大国に比肩ひけんせしめる核たるものだ」


 俺の故郷のハインリートにいた貴族も、領主として民衆を統治しているわけではなく、貴族が民衆の盾となり、その恩を返すために様々なものを納めている。


「さて、1年生の諸君らには挨拶がまだだったな。今回の生徒会選挙の選挙管理委員会の監督を務める、ルドルフ・カーフェンだ。そして、ここに並ぶ5名の生徒は、今回の選挙管理委員である。これより選挙期間及び生徒会役員任命式の終了まで、この5名に取り仕切ってもらう」


 すると、青色の腕章をつけた生徒が前に出て……おーおー、教壇よりも前に来たぞ。


「皆さん!おはよーごさいまーす!この度、選挙管理委員会を代表して、挨拶申し上げます。カグラ流2年、オットー・レーヴェと申します!さて!今年もやって参りました、年度初めの大きなイベント、生徒会選挙!あなたの1票で学院をよりよくしていきましょー!」


 大講堂にオットー先輩の声が響き渡る。

 

 ……オットー!今回も頼むぜー!……

 ……オットー!……

 ……銅鑼獅子どらじしィ!盛り上げてくれ!……

 ……オットー!頼むわよー!……


 すげぇ人気だな、オットー先輩。

 俺含め、1年生全員がキョトンとしていると、


「はい、1年生のみんな、おっはよーございまーす!元気ですかー?」


 ……おっ、おはよう、ございます……


「あっはっは!まぁまぁ、元気なんてものは出せる時に出すぐらいで丁度いいもんですからね、俺みたいに有り余ってるなら分けてあげた方がいいですけどもね!」


 ……いいぞオットー!今日もやかましいぞ!……

 ……アハハハハハ!……


「さてさて、では早速、選挙についての説明を行っていきましょう!」

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