第5話

 「んー。」

伸びをしながら起きる。昨日は朝ご飯を食べて、その後読書をして、昼ご飯を食べた後寝てしまった。途中で起きてご飯とお風呂と歯磨きを済ましたのだがそれにしても寝すぎてしまった。重い頭と体を起こして、ベッドから降りる。そのまま、洗面所へ向かい、顔を洗う。さぁご飯を食べよう思い、リビングに向かうと、人影があった。こちらに気づいたのか、それがこちらに寄ってきて、話しかけてくる。

「おっはよー!朝ご飯作ったよー!」

寝起きの僕は少々大きすぎる声を上げた。

「また、勝手に入ってきたのか、弥生。」

「合鍵渡したそっちが悪い。」

おいおい、とんでもない暴論だな。

「元はと言えばお前が渡せ渡せうるさいからだろ。」

「まぁまぁ、ご飯食べようよ。」

なぜか僕を諭すようにそう言いながら、机への移動を促してくる。椅子に座り、机を見ると、なんとも素敵なパンケーキが2皿置いてあった。

「これ、お前が作ったの?料理できんだな。」

「失礼な。できますよ。」

少し弥生のことを誤解していたようだ。

「それじゃ、食べよっか。」

『いただきまーす!』

目の前のナイフでパンケーキを切って、それをフォークで刺し、口へ運ぶ。もう、めちゃくちゃに美味しい。(どう?美味しい?)と言わんばかりに、弥生がこちらを見ている。

「うん、美味しいよ。」それしか出てこない。言語化は意外と難しい。

「嬉しい。ありがとう!」

と言いながら、自分もナイフでパンケーキを切り出す。適当と取れるほど、文字の少ない感想だったが、弥生は嬉しそうだ。それなら良いだろう。

『ごちそうさまでした。』

数分でパンケーキを食べ終わり、合掌をして、洗面所へ向かい、歯磨きをする。弥生も着いてきて、わが家の歯ブラシ入れから、新しい歯ブラシを勝手に取り出し、歯磨きをしだす。まぁいつものことなので気にしないが。歯磨きを終えて、自分の部屋に戻って、着替える。もちろん、弥生は着いてきていない。着替えを終えて、例の入場券を持って、部屋を出る。

「それじゃ、行こうか、星波水族館へ!」

「ラジャー!」


 最近買った車で、星波水族館へ向かう。道中の車内では、弥生と雑談を交わしていた。この前、免許を取ったばかりなので心配だったが、特に問題なく着くことができた。受付の人に2人分の入場券を渡す。

「うわー、楽しみだね!」

「あぁ、そうだな。」

今日のミッションは昨日僕が犯した罪を許してもらう事だ。忘れずにいこう。僕と弥生が最初に入ったのは、淡水魚が展示されているコーナーだった。弥生がカクレクマノミの水槽に駆け寄って行く。

「うわぁー。かわいー。」と溶けそうな顔で言う。人は可愛すぎるものを目の前にすると、こんな顔になるのか。平静を装っているが、僕もその溶けそうな顔に溶けそうな顔をしてしまっていた。

「どうしたの?そんな変な顔して。」

「し、失敬な。変な顔とは。」

「ふーん。それより、可愛すぎない?」

(なんだ、急に自画自賛か?)と思い、

「そうだな。可愛い。いや、可愛すぎるほどだ。」

そう、今日のミッションはいわば弥生を気持ちよくすれば達成と言っても過言ではない。だから、持ち上げておこう。

「そう、侑大ってそんなに魚とか好きだったっけ?」

「え?あ、あぁ最近魚の動画とかよく見てて。」必死にごまかす。どうやら僕は弥生のことを少し誤解していたようだ。今日はなんだか弥生への誤解がたくさん出てくるな。

「ふーん。あ、あっちタツノオトシゴいるよ。」そう言って、また走っていくのだった。

 その後も、じっくり館内を順々に巡っていったのだが、サメのコーナーの辺りで課長を見つけた。しかも横に男の人を連れている。(誰だろう、隣の人)と別に自分には関係ないことを考えてしまった。

「どうしたの、侑大?」

「いや、何でも」

そう言って、そのコーナーを後にした。その後も課長のことばかり考えてしまって、あまり集中して、見ることができなかった。全てのコーナーを見終わり、星波水族館を退館し、時計を見ると12時ぴったりだった。(そろそろ、お昼時か。)と思い、

「お昼ご飯何食べたいとかある?」

「うーん、ハンバーガー食べたい。」

「じゃあ、あそこにしよっか。」そう言って、近くのファストフード店まで車を走らせた。

 「じゃあ、てりやきバーガーセットでドリンクはコーヒーで。」

「私も、同じセットで。ドリンクもコーヒーで。」

星波水族館近くのファストフード店に着き、商品を注文して、お金を払い、空いている席に着く。

「なんか、最後の方上の空だった感じがしたけど大丈夫?」

「え?何でもないよ。」やっぱり、女の勘は鋭いのかな?と思いつつ、必死にごまかす。

「こちら、てりやきバーガーセット、ドリンクのコーヒー2品でございます。」商品が届いたので、一旦会話は途切れる。

「ありがとうございます。」

『いただきます。』

そう言って、ハンバーガーに2人かぶりつく。

「あの、昨日のこと怒ってないか?」

「え?なにが?」

もう怒っていない様子だ。それなら大丈夫だろう。

『ごちそうさまでした。』そう言って、店を後にした。

 星波水族館へ帰る道中の車内では、弥生は寝ていた。疲れていそうだったので、弥生の家へ直行して、弥生を起こす。

「おーい。起きろ。」

「ん。おはよう。」あくびをしながら弥生がそう言った。本当に疲れていたのか珍しく、大人しく帰っていった。僕も帰るとするか。

 家に帰り、まず手を洗いに行く。その後、昨日の続きの本を読んだ。気が向いたので、自炊をして、夜ご飯を食べた。そして、お風呂に入り、歯磨きを済ませ、ベッドに入った。

あの男の人誰だったんだろ。なぜか、ずっとモヤモヤしている。別に僕には関係ないのに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る