第6話

 入社して5日目。会社に出勤した日に換算すると3日目だ。今日も、いつものように満員の電車に揺られながら出勤する。冬だが満員だとやはり暑い。そんなことを考えていると、あっという間に会社近くの駅に着いた。そこからは、会社まで歩いていく。5分程度なのですぐに着く。ここまでの道のりでも、昨日のことを考えてしまっていた。そのせいで昨日は寝られなかったのだ。

「おはようございまーす!」と大きな声で挨拶をする。僕以外の社員は全員来ているようだった。

「おはよう。」と社員がこちらに負けない大きな声で挨拶を返してくれた。自分の席に着き、またあの事を考えてぼーっとしていると仕事が始まる時間となった。そこで僕の思考は一旦中断となった。

 いつものように課長と歩く。聞けば、僕の直属の上司になったようだ。双葉が話す。「川畑くん。今日は、お客さんの予約があるので、忘れないように。10時からだから。」腕時計に目をやると、あと30分ほどだ。すぐだろう。あの事聞くべきなんだろうか。いや、でも失礼な気がするな。やめておこう。そう結論づけた。あと、もう侑大くんとは呼んでくれないのだろうか。


 「こんにちは。どんなお悩みでしょうか?」

と双葉が20代位の女性に話しかける。

「彼氏が告白してくれなくて。進展がないんです。」

「なるほど。あなたから告白しちゃうのはナシなんですか?」

「で、できればあっちから言ってほしくて。」

「じゃあ、告白させるシチュエーションを考えましょうよ。」と思いついた案を2人に言った。

「こういうのは雰囲気が大事なの。例えば夜景が綺麗な所でーー」

「夜景ですね!」と思い、窓の外を見ながら言う。

「双葉さんって、綺麗ですね……」

「え?」顔を上気させながら困惑した声で双葉が言う。

「うわー。もう絶対告白じゃないですか。まずは、雰囲気作りが大切なんですね。試してみます!」

「はい。ありがとうございました。」いまだにフリーズしている双葉をよそに女性が帰っていった。

「なんで、私がドキドキしないといけなかったのよ……!」

「え?なんか間違えましたかね?」

「い、いやまぁ大丈夫よ。」

それから、事務作業をこなして昼休みだ。今日も海老名さんを誘おうかな。

「一緒に食べませんか?」

「喜んで。」

 今日もいつものように小さな食堂に移動する。今日は何も買っていないので、何か食堂で買って食べようと思う。海老名さんはラーメンにしていたので僕も同じ物にした。

「お前、振られたのか?」ラーメンを啜りながら、海老名さんがそんなことを口にする。

「え?」危ない危ない。ラーメンのスープを吹きそうになってしまった。僕は何回この人にご飯を吹かされそうになるのだろうか。

「いや、なんかそんな感じだったから」

「そんなことはないですけど……」

「ないですけど?」

「何でもないですよ。」

「ほんとか?恋愛マスターに嘘は通じないぞ。」この人そんな肩書きあったんだ。

「え、えーっと言っても良いんですかね?」

この人には頼っていいとは思う。

「ああ、口の固さには定評がある。」

「じゃあ。知ってる女の人が男の人と水族館に2人で行ってたらどう思いますか?」

「その女との関係によるだろ。」そらそうだ。更に海老名さんが続ける。

「そんなんでモヤモヤしてるならその女の事が好きなんだな。」

「え?」

「え?ってなんだ。そうじゃないか?じゃ、俺行くわ。」ラーメンを食べ終わって、すぐにどこかに行ってしまった。まずは、目の前のラーメンを食べ終わろう。

僕、課長のこと好きなんだろうか。でも知り合って5日で好きになるわけないよな。そうだったらキモいな。いや、あの恋愛マスターが言う事だからなー。でも、あの人この前課長の言動読めてなかったしな……。

そんなことを考えているうちに食べ終えてしまった。もう少し考える時間が欲しかったのだが。まあ良いだろう。もうそろそろ休憩時間も終わりだ。戻ろう。


 午後は特に何もなく、事務作業をこなして終わりだった。帰ろう。と思ったのだが、課長に呼び止められた。誰もいない入り口近くで話す。

「えーっと、何ですか?」

「今日、なんか上の空だった感じしたけど大丈夫。」バレるものなのだろうか。

「いや、何でもないですよ。」

「ほんとに?」そう言って、いわゆる壁ドンを僕にした。僕の胸の方に何か柔らかい何かが当たっているんだが、これなんだろう。理性が飛びそうだったが、何とか保ち、話す。

「え、えーっと昨日水族館いましたか?」

「え?何で知ってるの?」そのままの状態を保ちながら言う。もうやめてくれ、理性が飛びそうだ。

「昨日僕もたまたま行ってて。」

「へー。それがどうかしたの?」

「隣に男の人いたじゃないですか?」意を決して聞く。

「あぁ、あれ弟だよ。」

「え?」間の抜けた声を出してしまった。

「あ、あぁそうなんですか!それじゃ、帰りますね~。」そう言って逃げようと試みる。

逃げる僕の襟を掴んで双葉がいたずらっぽく笑った。

「もしかして、嫉妬しちゃった?」

またもや理性を失いそうになる僕だった。

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恋愛相談室のツンデレ課長さん 心弦 @0321ramune

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