第4話一度元の世界に戻る
家に帰りつくと家族が心配していると思っていたが何も変わらずに過ごしていた。不思議に思い母親に声を掛けた。
「母さん俺の事が心配じゃなかったの?」
「心配・・・それはこれからの事とか心配はしているよ。」
「いやそうじゃなくて俺が帰って来なかったこととか、今までどうしていたとか?そういうのは心配じゃなかったの?」
「何を言っているんだい。優は何時ものように帰って来たじゃないか。心配することは無いよ。」優二は驚いて
「今日は何月何日なの?」
「何、言っているの、今日は○月×日だけどそれがどうしたの?」
優二は驚いた。その日は別世界に迷い込んだ日にちで今の時間は廃ビルに入った時間から1時間しかたってなかった。“俺は時間も乗り越えてしまったのか。”そんな事を思いながら少し黙っていると、母親が怪訝な顔をして
「なにかあったの・・・・」と訊いてきた。
「いや何でもない・・・それよりお風呂沸いている?」
「お風呂・・・沸いているけど・・・珍しいわね、何時もはせかしても入ることを嫌がるのに。何かあったの?」
「いや何もない。今日は風呂に入りたい、ただそんな気分なだけ。」
「そうそれじゃあ、さっさと入ってきちゃってもすぐご飯が出来るから。」と言うと夕飯の支度を続けた。
優二はお風呂に入るとそのまま自分の部屋へ向かった。そしてまずスマホをチェックした。するとナギからメールが来ていて“明日映画に行く事を楽しみにしている。”とあった。優二は明日映画に行く事を約束していたのを思い出した。
ナギは同じ部活の同級生だ。クラスは違うが部活の後には一緒に帰って色々な話をしている。優二はナギに対して自分でも分からない思いがあった。それは異性としてみている思いなのか、親しい友人としてみている思いなのか区別がつかなかったが、もし中天に帰ると会えなくなるのでその思いを断ち切る事ができるか自信が無かった。
次の日になり優二はナギとの約束の場所で待っていた。ナギは時間どおりに現れいつものようにたわいのない話をしてくるがその話を優二は上の空で聞いていた。そして映画館に向かい映画を観た。
映画はアクションもので派手な爆破とかあったがそれを見ている時も優二は考え事をしていた。映画が終わり食事をすることになりファミリーレストランに入った。しかしその時にはナギは怪訝な顔で優二を見ていた。そしてすこし強めに言った。
「優君今日は会った時から心ここに有らずで、わたしの話も聞いてなかったみたいだけ何かあったの?」それに対して優二は少し間をおいて
「ナギ、俺の事をどう思っている?」
「何を、急に言っているの・・・、優君は大切な友達だよ。」
「もし俺がいなくなったらどうする?」
「卒業したらこの町を出て行くって事?」
「そうじゃなく俺と会えなくなったらという事。」
「そんなの嫌だよ。例えこの町を出て行っても帰ってくれば会うことできるじゃない。そんな悲しいこと言うのは、やめてよ。」
「それは何時までも友達としてか?」
「どういう事・・・?」
「もし俺が告白したらどうする?」
「何いきなり言っているの。ほんと今日はおかしいよ、優君」
優二は何も言わずナギを見ている。
「・・・本当に返事を聞きたいの・・・・?」
「いや冗談だ、悪かった。」
「冗談・・・そんな冗談悪趣味だよ。もう私帰る。」そう言うとナギは背を向け帰りかけた。優二は
「ナギ!待ってくれ!」と、大声で止めた。ナギは足を止めこちらを振り返った。
しかし優二はただ「ごめん。」とだけ言うと自分からその場を離れていった。
家に帰りつきベッドで今日の事を考えていた。ナギに対してあんなことを言うつもりはさらさらなかった。しかしなぜかあんなこと言ってしまった自分に呆れもしたし後悔もないわけではなかった。
そして自分では気づかなかったがナギに対して恋愛感情があるのかもしれないと気づかされた。
その日は寝付くことが出ず朝を迎えてしまった。そして一日中、中天に戻るべきかそのままここに留まるべきか考えていたがどちらにするにも決心がつかなかった。もし、中天に戻った時“後悔しないか?“また、ここに残った時”後悔しないか?“どちらを選択しても何がしかの後悔が残るそれは分かった。
そうなると、どちらの後悔が大きくなるかを考えた。ここに残ると今まで通り普通の高校生として過ごしていけばいいのだが、ニカラが言いていた“自分の魂は中天に生まれるはずそれが引きはがされてここに生まれてきた。”その事が気になってしょうがなかった。
“本当の自分とは一体何なのだ?“と、ここに残ればそんな疑問を持って生きて行かなければならない。もしニカラが言う事が本当ならばカエラと会うべきではないか・・・。そう考えてもここに生まれてしまった事で、ここで生活を送って来た事には変わりがない。その生活をあっさり捨て去る事は簡単な事ではなかった。
そんな風に迷っていると中天に戻らなければならない朝を迎えた。優二はナギの事の心残りよりカエラに会わない事の後悔が大きい事に気づいた。そしてそれは、いつかは家を出なければならいのだからと自分に言い聞かせた。最後に自分なりの家族との別れをすることにした。
最初は弟の部屋に行ってノックをして入ると弟はベッドで寝ていた。
「何だよ、兄貴、俺の所に来るなんて珍しいな。何か用か?」
「いや用は無いけど少し言っておきたい事があって。」弟は優二の顔を見て
「俺に話・・・、俺は兄貴に何かしたか?」
「いや何もないが・・・お前が使いたがっていた、ゲーム機を使っていいと、言いたいだけだ。」
「何だよ、それ、あのゲーム機は兄貴がバイトをして買ったやつで絶対に俺に触らせなかったのに使っていいとは熱でもあるのか。」
「いやそんなことは無い。言いたいのはそれだけだ。体に気を付けて暮らせよ。」と言うと部屋を出って行った。弟は“今日の兄貴はどこかおかしい”と思ったがそれ以上は詮索しなかった。
次に母親に会いに行った。母親は家事がひと段落してソファーに座りくつろいでいった。優二は母親の横に黙って座った。母親は優二の様子が変な事に気づき
「優何かあったの、この前から行動がおかしいよ。」
「いや何もない。少しここで休んでいたいんだ。」
母親は明らかにおかしい事に気が付いたが問い詰めるか黙っていようか考えていると優二は立ち上がりリビングを出て行った。その時小さな声で“ありがとう”と言ったが母親には聞こえてなかった。最後に父親に別れを告げたかったが仕事に行っていてそれは出来なかった。家族との別れは少し照れくさく淡白なものになってしまった事を後悔したがこれからやり直す気にはなれなかった。
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