第5話 優しい嘘

それから数日、透の体調は悪化していった。

 会話の途中で咳き込むことが増え、時々、苦しそうに息をしていることもあった。

 「透……無理しないで」

 そう言っても、透は決まって「大丈夫」と笑った。

 でも、その笑顔がどんどん儚くなっていくのを、凛は気づいていた。

 ある夜、透の病室の明かりが消えていることに気づいた。消灯時間を過ぎていても、透はいつも小さなライトをつけて本を読んでいたのに。

 不安になって、そっと病室を覗いた。

「……透?」

 透はベッドに横たわっていた。目を閉じて、静かに寝息を立てている。

 ――よかった。眠れてるんだ。

 そう思って引き返そうとしたとき、透が小さく呟いた。

「……俺、たぶん、約束……守れない」

 凛の心臓が、ドクンと鳴った。

「何言ってるの?」

 透はゆっくり目を開け、微笑んだ。

「ごめん……」

「何が?」

「全部」

 透は、何かを言おうとして、でも言葉にせずに目を閉じた。

 その夜、凛は眠れなかった。

 窓の外には、雲に覆われた白い空が広がっていた。

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白い部屋の約束 @kurea0607

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