第3話 小さな約束

それから、透と話すことが当たり前になった。

 朝の検査前、昼の食事の時間、夜の静かな病室――会話の多くは他愛のないものだったけれど、不思議と心地よかった。

「凛って、普段は何してるの?」

 ある日、透がそう聞いてきた。

「普段って言っても、病院の中だからね。読書とか、音楽を聴くとか……窓の外を眺めるくらいかな」

「ふーん、地味だね」

「うるさいな」

 思わず口を尖らせると、透はくすくす笑った。

「でも、分かるよ。俺もずっと病院にいるからさ、窓の外を眺めるくらいしかできない。でもさ――外に出たら、したいこととかないの?」

 透の言葉に、凛は少し考えてから答えた。

「……海が見たいな」

「海?」

「うん。もうずっと行ってないの。青くて、広くて、風が気持ちよくて……」

 透は静かに聞いていた。そして、少し笑って言った。

「じゃあ、退院したら一緒に行こう」

 凛は思わず透を見た。

「……約束、してくれるの?」

「うん」

 透はまっすぐな目でそう言った。

 その言葉が、どれほどの意味を持つのか――凛はまだ知らなかった。

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