第1話 白い病室

凛がこの病院に来て、もう三ヶ月が過ぎようとしていた。

 最初は慣れなかった白い壁、消毒液の匂い、静かすぎる空間。けれど、今ではすっかり日常になった。

 朝、目を覚ますと窓の外は曇っていた。冬の空はどこか寂しげで、見ていると胸の奥が締めつけられる。

 ふと隣の病室を見ると、昨日まで空だったベッドに誰かがいた。

 彼は、ぼんやりと天井を見つめていた。

 痩せた体、青白い肌。けれど、その瞳だけはどこか強い光を宿していた。

「……君、ここの人?」

「俺,透っていうんだ。君は?」

 不意に透がこちらを見て、そう声をかけてきた。

「ただの入院患者。私は凛」

 凛がそう答えると、透は少し笑った。

「凛。いい名前だな。俺も今日からここに住むことになったんだ」

「住む……?」

「ま、そんな感じ」

 透はそう言って肩をすくめた。

 それがどういう意味なのか、凛は深く考えなかった。ただ、この病院で初めて同世代の人と出会えたことが、少しだけ嬉しかった。

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