それなりな毎日
香坂 壱霧
第1話 腐れ縁は犬猿の仲
そのときわたしは、体育館の出入口に一番近いパイプ椅子に座っていた。入学式のその日はあたたかく、適度に低い声の校長先生の話が子守唄に聞こえたんだと思う。気がついたら眠りに落ちていた。
夢の中のわたしは、桜並木の中で手を繋ぎ笑いあう二人のシルエットを見ていた。「よかったね」なんてつぶやきながら、幸せな気持ちで満たされていたとき、誰かがわたしにぶつかってきて──わたしは、目をさました。
わたしの隣の席に、知らない男子がどかっと座り込んできたらしい。
「誰よあんた、何してんの」と、わたしは心の中で叫んでいたけど、口には出さない。睨みつけるのが精いっぱいだったから。
その男子は割と注目を浴びているはずなのに、視線をものともせずにまっすぐ前を見ていた。その妙に落ち着いた様は、ついこの間までランドセル背負っていたように見えない。周りの同級生の男子は制服がぎこちなく見えるのに、すでに着崩して着こなしているようで……
入学式に堂々と遅れてきて、違うクラスの席に座るその男子を、わたしはガン見していた。
「なんだよ」
「ここ、あんたの席じゃないよ」
目があってびっくりしたのを悟られないように、睨みつけながら小声でそう言ったあと、ステージにいる男子を見た。新入生代表挨拶が始まっている。
「ほら、今あそこ、二つ前の男子の席が空いてるでしょ。今あんたがいるのは、新入生代表で挨拶する男子の席なんだよ」
「今は、ここが空いてんだからいいじゃん。オレの席、パット見た感じ分からなかったんだから」
そんな会話をしていると、背後にわざとらしく咳をする身体の大きな先生が立っていた。
「それ以上話すなら、あとで生活指導の教室で話したいだけ話させてやるからな」
威圧感をマックスにしているらしい先生は、みるからに生活指導担当だし体育教師らしかった。
めんどくさいのに目をつけられたな、なんて思いながら喋るのをやめた。
「黙れるなら最初から、そうしてろ」
ドスのきいた声色は、残念なことにびびったりしない。
これが、わたしとあいつ──
廊下ですれ違うとき、放課後の帰り道でふざけあったりして、クラスが違うのに同じクラスの女子よりも過ごす時間が多いかもしれないくらい、一緒にいるし、一緒にいて、疲れない。
「おまえさ、友達いねぇの? なんで俺とばっかつるんでんの」
ある日の放課後の帰り道、ファーストフード店へ向かっていた。トモたちのグループが集まってると聞いて、わたしは遠慮しようとしたんだけど。
お小遣いが残り僅かだった。みんなが楽しくしてるところで、わたしはお金がないから盛り上がれない……なんて最悪だ。
「いくぞ。おごるしさー。ほかにダチいるから、楽しいよ」
「今日は帰るつもりだったのに、トモが連れて行こうとしてんでしょ。楽しいかどうかはわたしが決めるし?」
最近、女子たちの目線が痛くなってきたのもある。男子六人に混ざる女子って、やっぱりダメなんだろうな。
すぐに恋バナに結びつける女子には悪いけど、わたしはそういうのはまだ興味ない。
「今日はおまえがいてくれたら助かる」
「どうして?」
「行けばわかるから」
なんとなくどきどきしながら、ついて行ったよね。
一年のときのクラスは違ったけど、なぜかそれ以来お互いの友達を交えて仲良くなって、放課後や休みの日にみんなで遊ぶようになっていた。
中学三年でようやく同じクラスになったときは、本当は嬉しかったのに
わたしが一番あいつに近い女子だと、なぜ思い込んでいたんだろう。そんな勘違いをしてきた今までの時間をデリートできるなら……
ううん。悔しいけど、
それなりな毎日 香坂 壱霧 @kohsaka_ichimu
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