何度目かの過ち

白川津 中々

◾️

そんなつもりがなかったかといえば、嘘になる。


会社の後輩と飲みに行って、盛り上がって、それから……


「やらかしたなぁ」


自己嫌悪。

明日からどんな顔をして話をすればいいのか。その気になられたりしていたら面倒だし、何事もなかったかのようにされても癪に障る。私から誘っておいて勝手な話だが、なんとなく、態度と言動には気をつけてほしいと思ってしまう。

だいたい相手は彼女がいる(私は一人だけれども)。略奪愛に抵抗はないけれど、実際に自分がやってみるとなると億劫だし、素性も知らない女性から寝取ったところで醍醐味を感じない。横恋慕はお互いをよく知っているからこそ背徳感が得られるのだ。赤の他人の男を奪ったところで心は高揚しない。更にいうのであれば、彼に対して魅力は感じず、興味はほぼないに等しい。お酒が入って楽しい時間を過ごせたのは事実としてある。でも、それだけ。趣味も趣向もまるで合わないうえ面白みもない男だ。真面目というよりは遊び方を知らないだけで、人並みに欲望はある、俗な人間。そんなものだから揶揄って遊んでいただけなのに、徐々に歯止めが効かなくなってしまった。私の悪い癖だ。過去、それでつけ回されて仕事を辞めざるを得なくなった教訓をまるで活かせていない。会社まで来て泣きながら「俺が悪かったぁ」なんて言われた時に浴びた冷ややかな視線といったら。彼が似たような真似をするかどうかは分からないけれど、不安は拭えない。どうしたものか。重たい頭を軸にしてベッドから起き上がりスマートフォンを見ると、メッセージが一件。


"昨日はありがとうございました"


簡単な文章の中に、裏があるんじゃないかと勘ぐったり、含みを感じたりして、曇ってしまう。やはり軽率だったなと、悔いる。


「変えなきゃなぁ、こういうところ」


散らかった部屋の中、一夜の過ちに乱される。こうなると分かっていたのに、どうして止められなかったのか。どうにも私はよくない人間だ。


ただ、でも。


「まぁ、よかったかな」


快楽は忘れられず、得難い。

変えたい、治したい、そんな想いも、霞むほどに。


結局、私はまた、同じ過ちを繰り返すだろう。

一人でいる限り、いや、誰かが隣にいても、きっと、ずっと。

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