第28話
飛行機の窓から下を覗くと、「さぬき」と書かれた地上絵ならぬ地上文字が見えた。
亮は久しぶりの故郷の空気を感じながら、静かに目を閉じる。
瞼の裏に、幼い頃の断片的な記憶が浮かんでは消えていく……。
――最初に俺の「力」に気づいたのは祖母だった。
霊感の強かった祖母は、俺には見えているのがわかっていたんだと思う。
幼い頃は、それが普通じゃないって気付いてなかった。
見えるものをただ消していた。触れると消える。簡単なことだった。
それから時々、変な夢を見るようになった。
行ったこともない場所の景色、見知らぬ人との会話の断片。でも、不思議と怖くはなかった。
そんなある日、婆ちゃんと街へ買い物に行く途中、あまり見かけない怖そうなのに出くわした。
道を塞ぐように立っていたその黒い影を見て、『今日はやめておこうか』と、引き返そうとする婆ちゃんに、俺は『消しちゃえばいいよ』と言って、その影に触れた。
それを見た婆ちゃんが初めて声を上げて俺を叱った。
『むやみに消しちゃだめだ!』と……。
それからしばらくして――。
「亮、亮ってば、聞いてる?」
鮮明な記憶が途切れ、亮は現実に引き戻された。
「あ、ごめん、何?」
隣の席に座る志堂寺が不満げな表情で亮を見ていた。
「だから、着いたらまず、亮の実家から行くかって聞いてんの!」
「ああ、ごめん。そうだな、叔父さんにも挨拶しておきたいし……」
「ったく、ぼーっとしてちゃ駄目よ?」
亮は黙って頷いた。
もう一度窓の外に目を向ける。
雲の切れ間から見える故郷の景色に、どこか懐かしさと共に不安がよぎった。
思い出したくない記憶がある。
ふと、母から見た自分の幼い笑顔が再び脳裏をよぎった。
あの日、俺は何を消してしまったのか――。
亮は右手の黒い手袋をぎゅっと握りしめ、着陸に備えた。
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