第27話

――UPMA本部・資料室。


静まりかえった資料室では、ざっと十数名の調査員や職員がそれぞれに調べ物をしていた。そんな中、志堂寺はPCブースでモニタに映る古文書の画像をじっと見つめている。


時折、素早いタイピング音と、ページをスクロールさせるマウスのホイール音が響く。その隣には亮が座り、公園で見つけた式神の札を、分厚い資料本に載った図版と見比べていた。


「なぁ、こんなので本当に怪異を操れるのか?」

「たぶんね」


志堂寺はモニタから目を離さずに答えた。


「さっき榊博士に聞いたんだけど、この札ってちょっと傍点なんだって」

「変?」


「うん、札の形状は素人っぽいんだけど、中に込められた力は異常なくらい強いものらしいの」


亮は改めて札を見る。

気のせいかもしれないが、言われてみると、どこか不穏な雰囲気を感じる。


「ってことは、裏に相当な力を持った術者がいるってことか……」

「博士も言ってたわ。これだけの力を持つ札を作れる人間はそう多くないって。しかも、あの紅舌みたいな定型怪異を操るなんて……」


志堂寺はモニターを見ながら、不安そうに眉を寄せた。

亮は腕組みをしてむぅと唸る。

ただの怪異ならまあ、最悪消せばいい。だが、そこに人為が加わっていたとなると話が変わる。犯人はまだ何か企んでいるかもしれないのだから――。

亮が考え込んでいると、志堂寺がぽつりと言った。


「あのね、稲倉さんが昔、管狐を手に入れるために修行に行った山寺が四国にあるんだって」

「……四国か」


「ん? どうかした?」

「あ、いや、俺の実家っていうか……祖父母の家があってさ」

「そうなの⁉」


志堂寺が甲高い声で聞き返す。


「ほら、今回、野々宮さんに話を聞きに行くのなら、ついでに実家の風通しでもしておこうかなって思ってたんだ」

「ふぅーん、ならちょうどいいわね」

「え?」

「私も管狐を手に入れようと思って」


志堂寺はニヤッと笑い、どこからか取り出した白い封筒を見せる。


「それは?」

「稲倉さんに紹介状を書いてもらったのよ」


志堂寺が自慢げに封筒をちらつかせる。


「しゅ、修行すんの……⁉」

「まあね、やるだけやってみようかなって。だって、このままじゃ私、足手まといだし――」

「そんなことは……」


「それに、亮だけじゃ心許ないじゃない?」と、志堂寺はからかうように笑った。

「ま、まあ、否定はしないけどさ……」


そう言って、亮も笑みを返す。


「よーしっ! じゃあ、決まりっ! 四国へ飛ぶわよーっ!」


勢いよく志堂寺が立ち上がり声を上げると、周りの利用者から一斉に咳払いと非難の目が注がれた。


「あ……す、すみません……でした」

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