第23話
「あ、あれ! あそこっ、神宮司だ!」
亮が眺望の森のベンチを指さした。
ベンチの上で、重なる二つの影が見える。
「まずいっ、襲われてる!」
志堂寺が叫ぶと同時に駆け出し、亮と稲倉もそれに続く。
三人の芝生を踏みしめる足音が、静寂に包まれた夜の公園に響き渡った。
「やめなさいっ!」
神宮司に跨がる女に向かって志堂寺が叫んだ。
「あ……?」
女はゆっくりと、まるで人形のように首だけを振り返らせる。
月明かりに照らされたその顔は、一見すると可愛らしく清楚な印象だったが、その眼は異様に見開かれ、瞳孔が針のように細くなっていた。
「なんなのあなたたちぃ……私と神くんの邪魔をするんだ?」
それは女の声でありながら、別の何かが混じっているような不気味な響きを持っていた。
女が神宮司の首から手を離し、ゆらりと立ち上がった。
「げほっ! がはっ……はぁ、はぁ……た、たすけ……」
神宮司が、まるで溺れた人のように咳き込み、ベンチに倒れ込んだ。
「任せろ!」
亮が神宮司の元へ駆け寄る。
「何をするのよっ!」女が亮に襲いかかろうとする。
「こっちだ!」
稲倉がバッグから透明な袋に入った荒塩を取り出し、何かを唱えた後、女に向かって投げつけた。
「きゃぁああああああ――――――‼」
女が顔を押さえて悲痛な声を上げた。
「いまのうちだ!」
稲倉の声に亮が頷き、神宮司を離れた場所へ移動させる。
「あなた、野中さゆりさんよね⁉ ここはあなたの居る場所じゃないわ! 居るべき場所へ還るのよ!」
志堂寺が女に語りかける。
「おのれ……口惜しや……口惜しや……」
ノイズが走り、長い黒髪で不気味なまでに白い顔をした女の姿が重なる。
「いかん! し、志堂寺! あ、紅舌だ!」
稲倉が叫ぶ。
「神宮司はどうなってもいいの⁉」
志堂寺の言葉に女が反応する。
「じ…神くん……」
ノイズが入り乱れ、紅舌と女の姿が何度も入れ替わる。
「稲倉さん!」
「ま、待ってくれ、いま管山猫を……」
稲倉がバッグの中を漁り、ポテチのロング缶を取り出す。
「おのれおのれおのれおのれぇ……神く……」
女は喚きながらその場で髪を振り乱した。
「ひ……な、なんだよ、あれ……」
顔面蒼白になった神宮司が、芝生の上を這うようにして後ずさった。
「神宮司さん、彼女を救うために協力してください!」
「な、何言ってんだお前、正気かよっ⁉ ふざけんな!」
神宮司は亮に向かって声を荒げる。
亮は構わず続けた。
「信じられないかも知れませんが、あの女性に憑いているのは野中さゆりさんの霊です! このままじゃ、彼女はあのまま怪異として存在することになる……そんなの可哀想すぎるでしょう⁉」
「ん……んなもん、俺には関係ねぇ!」
「あんたの客だろうが!」
亮は気付くと神宮司の胸ぐらを掴んでいた。
すぐにハッとして手を離す。
「す、すみません、でも……神宮司さんなら彼女を救えるんです……」
「……俺が?」
「はい、名前を呼ぶだけでもいいんです! お願いします!」
神宮司はチッと舌打ちをして、
「呼ぶだけで良いんだな……?」と、亮を見上げた。
「はいっ! あとは都市安全調査センターにお任せください」
亮は芝生に座り込む神宮司に手を差し出した。
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