第19話

UPMA施設内、深夜の救護室――。

サイドテーブルの上でスマホの画面が輝き、天井を照らすと同時に、バイブ音が響き渡った。


「ん……誰だよもう……」


大きくため息をつきながら、亮がスマホを手に取る。

見ると、非通知発信だった。


「今時、非通知って……」


そのまま拒否しようとして、ハッと思い止まる。


「まさか……」


亮は慌てて上半身を起こし、通話をスワイプした。


「もしもし……」

「……」

「あの、僕です、多々良です」


この感じ、きっと神宮司さんだ……。間違いない。


「もしもし、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……俺だ。神宮司だ」


「神宮司さん! 良かった、連絡しようと思ってたんですよ」

「……あのさ、お前の連れの女……言ってたよな。美人にどうとか……」


「え、ええ、そうですね……。もしかして、何かあったんですか?」

「悪い、やっぱいいわ――」


「えっ!? ちょっと! 神宮司さんっ!?」


通話は切れていた。

きっと何かあったんだ……。


まさか紅舌に遭遇してしまったとか!?


どうしよう、早く探さないと――。

亮はベッドから降りて、急いで洋服に着替える。


そして、救護室を出ると、誰かいないか探し始めた。

本部の中は一部を除いて照明が落とされている。


もう、真夜中だし、誰も残っていないのかな……。


薄暗い中、明かりを求めてさまよっていると、電気の点いた部屋を見つけた。

ドアをノックすると、中から誰かの足音が聞こえてくる。


「すみません、遅くに」と、先に声を掛ける。

すると、驚いた顔で榊博士がドアを開けてくれた。


「……どうしたの? こんな夜中に」

「あ、ちょっと緊急で……三島さんに連絡が取りたいんですけど……」

「ふむ、ちょっと待ってくれ。あー、中に入って」


博士は亮に手招きをして、部屋の中に戻る。


「失礼します」


中はかなり広く、壁一面のディスプレイが亮の目を引いた。


――凄い設備だな。


物珍しさにキョロキョロと辺りを見回していると、奥から博士が戻ってきた。


「三島には連絡を入れた。すぐに来るだろう」

そう言って、榊は向かいの丸椅子に手を向ける。


「ありがとうございます」

亮が腰を下ろすと、博士が「コーヒーしかないけど?」と聞いてくれた。


「あ、いただきます、ありがとうございます」

少し緊張しながら答える亮。


すぐに博士が紙コップに入れたコーヒーを持って戻ってくる。


「砂糖は?」

「あ、大丈夫です」


「それは良かった、砂糖は置いてないからね」

冗談なのかどうかがわからず、曖昧な笑みを浮かべる亮。


博士はコーヒーを一口飲み、「で、何があった?」と尋ねた。


「神宮司さんというホストの方から連絡があったんです」

「あぁ、例の……」


「何か気にしてる様子だったので、もしかすると怪異と遭遇したんじゃないかって……」

「なるほど、確かに危険かもしれんな」


「やっぱり、探した方が良いですよね?」

「……悪いがその判断は専門外だな。ほら、ちょうど専門の男が来たよ」


ドアが開き、三島が入ってくる。

急な呼び出しにもかかわらず、昼間と全く同じ姿だ。


「亮ちゃん、どうした?」

「三島さん、あの、神宮司さんから連絡があって」


「神宮司が?」

「はい、すぐに切られてしまったんですが……何か気にしている様子でした」


「わかった、すぐに近場の職員を向かわせよう」

三島はスマホを素早く操作し、「よし、運が良ければ一気に片が付きそうだね」と笑う。

「じゃあ、瑠果ちゃん拾って、公園で神宮司を待とっか?」

「は、はい――」


亮は博士にコーヒーのお礼を言ったあと、三島の後に続いた。

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